10月25日にバンガード報告会(スピーカー:竹川美奈子氏)が開催されたこともあって、バンガード関連の話題を聞きます。
【参考:バンガード報告会の参加レポート】
・竹川美奈子さんのバンガード視察ツアー報告会に参加しました ("いい投資"探検日誌 from 新所沢)
・米国バンガードツアー報告会レポート(梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー)
このバンガード視察ツアーの報告会には参加していないので会の話は書けませんが、バンガードの素晴らしき仕組みを自分の整理がてら書いてみます。
上の「"いい投資"探検日誌 from 新所沢」の報告にも書かれていますが、at-costという考え方が最重要です。バンガードはこう言っています。
これは私も反省。仕組みは分かっていたのですがlow-costとat-costという用語を区別せずにバンガードの話をしていました。低コストより優れた仕組みをat-costとしているのですからバンガードに敬意を払うならここはしっかりと区別すべき。
そんなat-costの仕組みが素晴らしい。
まずはさんざんに言われていることですが、極めて低いExpense Ratio(≒信託報酬)です。業界平均が1.12%に対し、バンガードのファンドの平均は0.20%。
1.12% vs 0.20%と非常に低い水準になっています。
そして、今日の本題はExpense Ratio以外の仕組みです。
【1】1万ドル以下の残高には年20ドルの口座手数料
「低コスト」を是とするならば無料こそが良いのでしょう。しかし、バンガードは1万ドル(今のレートだと約80万円)以下の預かり資産にはファンド毎に20ドル/年の口座手数料(Account Service Fee)を徴収しています。
【2】預かり資産残高5万ドル未満は口座手数料は無料
バンガードは顧客を預かり資産残高で区別しています。
・~5万ドル: Core
・5万ドル〜50万ドル: Voyager
・50万ドル〜100万ドル: Voyager Select
・100万ドル〜: Flagship
このクラス毎に受けられるサービスが違っており、上記のファンド毎の20ドルの手数料が課されるのは5万ドル以下と一番下のCoreクラスだけです。Voyager以上でこの費用は無料になります。
【3】Admiral Sharesというより低コストなファンド
ただでさえ0.20%平均と低Expense Ratioですが、インデックスファンドにおいては1万ドル以上、アクティブファンドにおいては5万ドル以上の投資額であれば多くがAdmiral Sharesというより低Expense Ratioのファンドがあります。
【4】最初は3000ドル、追加投資は100ドル*からという最低購入額 (*自動積立は50ドル)
日本では投資信託は基本的に1万円から購入できます。また販売会社によっては500円からのように少額投資も可能です。
しかし、バンガードでは初回の投資には3000ドル(約24万円)が必要です。また、追加投資においては100ドル、積立でも50ドルからと決して最低購入額は低くありません。
参考: Vanguardのサイト
・Vanguard mutual fund accounts
・Vanguard Personal Services—assistance you can count on
上記4つの仕組みは非常に共感を持てます。
ファンドの運用にはコストがかかります。
日本の多くの販売会社のように口座管理手数料を取らない形式では、わずかな額しかファンドを買ってくれない顧客は、コスト>収入となります。
仮に50万円しか投資信託を保有しない顧客がいて0.20%しか手数料を取らないなら年1000円の収入にしかなりません。この人の口座を管理して運用報告書を送付して…では全く割に合いません。
しかも「月1万円から投資を始める」という顧客の場合、1年間後でも12万円の預かり残高です。ここから0.20%を取っても年240円の収益にすぎません。
これでファンドの運用を続けていこうとすれば、誰か他の人にそのコストを押し付けることになり、ファンド全体の手数料引き下げは難しくなります。
しかし、at-costを標榜するバンガードでは顧客本人からコストを徴収するような仕組みです。少額投資に対してはファンド毎に20ドルの口座管理手数料を取れば、その少額口座を管理するコストを他人に転嫁させることなく本人に負担させるようにできます。
預かり残高が増えればExpense Ratioから得られる収益が大きくなるので口座管理手数料を取らないで運営できるようになります。
このような仕組みにすればファンドのExpense Ratioを引き下げることも容易になります。
「口座管理手数料の有無」「残高に応じたExpense Ratioが違うファンド」「相談の有無」のように資産額に応じた費用・サービスレベルの違いは、ビジネスとしてバンガードを続けていくために非常に優れている仕組みでしょう。
日本では「より少額で買える」「口座管理手数料を取らない」のような方向性が主流で、バンガードのようなat-costの「口座管理手数料の有無」「残高に応じたExpense Ratioが違うファンド」「相談の有無」という仕組みを設けようとする会社はありません。
バンガードのような仕組みを設ける会社もでてきていいのではないでしょうか…と思う反面、日本でこのビジネスモデルを展開するのはそう簡単ではなさそうです。
日本では直販ファンドの投資報告会/セミナーなどは人気があります。顧客と運用会社の強い結びつきとしてのFace to Faceに対する価値が高いようにも思います(報告会のレポートにあるようにバンガードはWebが基本)。
また、いくつかの会社で投資可能最低額が1万円から引き下げられた時にもそのほとんどが好意的な意見だったように、少額投資に対する期待値も非常に大きそうです。
口座管理手数料への抵抗感も強いように思え…バンガードモデルは文化的に合わないかもしれません。
これは、どちらが良い/悪いということではなくて目指すべきベクトルが全く違うというだけの話です。しかし、だからこそ難しい。どちらかが悪いなら明らかにそちらにダメ出しして終了ですが、どちらにも理があるので一方を良し悪しで駆逐して終わりとはいかない…
バンガードも創設当初は苦労したとのことですが、このモデルを入れることはなかなか難しそうです。
【参考:バンガード報告会の参加レポート】
・竹川美奈子さんのバンガード視察ツアー報告会に参加しました ("いい投資"探検日誌 from 新所沢)
・米国バンガードツアー報告会レポート(梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー)
このバンガード視察ツアーの報告会には参加していないので会の話は書けませんが、バンガードの素晴らしき仕組みを自分の整理がてら書いてみます。
上の「"いい投資"探検日誌 from 新所沢」の報告にも書かれていますが、at-costという考え方が最重要です。バンガードはこう言っています。
What can be better than low-cost? At-cost investing. At Vanguard, a fund costs you what it costs us to run it.
これは私も反省。仕組みは分かっていたのですがlow-costとat-costという用語を区別せずにバンガードの話をしていました。低コストより優れた仕組みをat-costとしているのですからバンガードに敬意を払うならここはしっかりと区別すべき。
そんなat-costの仕組みが素晴らしい。
まずはさんざんに言われていることですが、極めて低いExpense Ratio(≒信託報酬)です。業界平均が1.12%に対し、バンガードのファンドの平均は0.20%。
1.12% vs 0.20%と非常に低い水準になっています。
そして、今日の本題はExpense Ratio以外の仕組みです。
【1】1万ドル以下の残高には年20ドルの口座手数料
「低コスト」を是とするならば無料こそが良いのでしょう。しかし、バンガードは1万ドル(今のレートだと約80万円)以下の預かり資産にはファンド毎に20ドル/年の口座手数料(Account Service Fee)を徴収しています。
【2】預かり資産残高5万ドル未満は口座手数料は無料
バンガードは顧客を預かり資産残高で区別しています。
・~5万ドル: Core
・5万ドル〜50万ドル: Voyager
・50万ドル〜100万ドル: Voyager Select
・100万ドル〜: Flagship
このクラス毎に受けられるサービスが違っており、上記のファンド毎の20ドルの手数料が課されるのは5万ドル以下と一番下のCoreクラスだけです。Voyager以上でこの費用は無料になります。
【3】Admiral Sharesというより低コストなファンド
ただでさえ0.20%平均と低Expense Ratioですが、インデックスファンドにおいては1万ドル以上、アクティブファンドにおいては5万ドル以上の投資額であれば多くがAdmiral Sharesというより低Expense Ratioのファンドがあります。
【4】最初は3000ドル、追加投資は100ドル*からという最低購入額 (*自動積立は50ドル)
日本では投資信託は基本的に1万円から購入できます。また販売会社によっては500円からのように少額投資も可能です。
しかし、バンガードでは初回の投資には3000ドル(約24万円)が必要です。また、追加投資においては100ドル、積立でも50ドルからと決して最低購入額は低くありません。
参考: Vanguardのサイト
・Vanguard mutual fund accounts
・Vanguard Personal Services—assistance you can count on
上記4つの仕組みは非常に共感を持てます。
ファンドの運用にはコストがかかります。
日本の多くの販売会社のように口座管理手数料を取らない形式では、わずかな額しかファンドを買ってくれない顧客は、コスト>収入となります。
仮に50万円しか投資信託を保有しない顧客がいて0.20%しか手数料を取らないなら年1000円の収入にしかなりません。この人の口座を管理して運用報告書を送付して…では全く割に合いません。
しかも「月1万円から投資を始める」という顧客の場合、1年間後でも12万円の預かり残高です。ここから0.20%を取っても年240円の収益にすぎません。
これでファンドの運用を続けていこうとすれば、誰か他の人にそのコストを押し付けることになり、ファンド全体の手数料引き下げは難しくなります。
しかし、at-costを標榜するバンガードでは顧客本人からコストを徴収するような仕組みです。少額投資に対してはファンド毎に20ドルの口座管理手数料を取れば、その少額口座を管理するコストを他人に転嫁させることなく本人に負担させるようにできます。
預かり残高が増えればExpense Ratioから得られる収益が大きくなるので口座管理手数料を取らないで運営できるようになります。
このような仕組みにすればファンドのExpense Ratioを引き下げることも容易になります。
「口座管理手数料の有無」「残高に応じたExpense Ratioが違うファンド」「相談の有無」のように資産額に応じた費用・サービスレベルの違いは、ビジネスとしてバンガードを続けていくために非常に優れている仕組みでしょう。
日本では「より少額で買える」「口座管理手数料を取らない」のような方向性が主流で、バンガードのようなat-costの「口座管理手数料の有無」「残高に応じたExpense Ratioが違うファンド」「相談の有無」という仕組みを設けようとする会社はありません。
バンガードのような仕組みを設ける会社もでてきていいのではないでしょうか…と思う反面、日本でこのビジネスモデルを展開するのはそう簡単ではなさそうです。
日本では直販ファンドの投資報告会/セミナーなどは人気があります。顧客と運用会社の強い結びつきとしてのFace to Faceに対する価値が高いようにも思います(報告会のレポートにあるようにバンガードはWebが基本)。
また、いくつかの会社で投資可能最低額が1万円から引き下げられた時にもそのほとんどが好意的な意見だったように、少額投資に対する期待値も非常に大きそうです。
口座管理手数料への抵抗感も強いように思え…バンガードモデルは文化的に合わないかもしれません。
これは、どちらが良い/悪いということではなくて目指すべきベクトルが全く違うというだけの話です。しかし、だからこそ難しい。どちらかが悪いなら明らかにそちらにダメ出しして終了ですが、どちらにも理があるので一方を良し悪しで駆逐して終わりとはいかない…
バンガードも創設当初は苦労したとのことですが、このモデルを入れることはなかなか難しそうです。