通貨選択型の登場以来、「この商品に対する"本質的な"需要がどこあるのか?」と疑いたくなる複雑な投資信託が多数登場しています。

2011年12月時点で最も複雑な投資信託でも紹介したように、通貨選択+カバードコールのようなもはや意味不明な商品まで出てきつつあります。普通の銀行の販売員レベルではちゃんとリスクや仕組み等を理解して説明できているか極めて怪しい商品です。

これは、売れる商品がほしい販売会社と、それに応える運用会社の努力の賜物ですが、どうしてこんな複雑な商品を開発することになったのでしょう?


「アメリカのハイ・イールド債に投資しつつ、レアルでヘッジしたいという顧客は多い」なんて顧客の要望から登場したはずはありません。
高い分配金を出すファンドに人気が集まるので、高分配が可能な投資信託を作ろうとしたからです。

好きなように顧客から預かった資産を売却して分配金を出すことができれば簡単です。利益が出ていなくても投資信託内に組み込んだ有価証券を好きなだけ売って分配金を出せるのですから、基準価額以下の金額であれば自由に決められます。

ところが、分配金の原資については『投資信託財産の評価及び計理等に関する規則』の第5編(第54条〜第63条)に定められており、自由に分配金の原資を捻出することはできません。
この規則の基本的な意図としては、分配金は「債券のクーポンや有価証券の売買益といった収益」から出すようにするものでしょう。
しかし、この規則には抜け道があります。(例えば以下のようなルール)
(1)経費控除後の債券のクーポンは全て分配金に回せる。
(2)経費控除後の有価証券売買等利益は分配準備積立金として翌期に繰り越せる。分配準備積立金は全部分配金に回せる。

(1)の規則は、本来であれば「債券のクーポンから利益を出しましょう。クーポン以上のムチャは止めましょう」という趣旨だったかもしれません。しかし、「クーポンを高くすれば、元本がどうなろうと分配金原資は大きく稼げる」というように読んで、ハイ・イールド債のようなクーポンが高いファンドに手を出すようになりました。

これだけでは飽き足らず、ブラジルレアルや豪ドルのような高金利通貨に為替ヘッジした場合に得られる為替ヘッジプレミアムを外国籍投信を使ってインカムゲインにして分配金原資にもしています。
参考

これらは、顧客の利益を求めた商品ではなく、如何にして分配金原資算出ルールの抜け道を探して多くの分配金原資を獲得するかという観点からみた商品開発でしょう。

分配金の原資を制限することによって、その規則内で多くの分配金原資を獲得するための複雑な手法が編み出されています。分配金原資に制限がなければ好きなように信託財産を換金して分配金を出せますので、今のような「分配金原資を獲得するための複雑な仕組みを持ったファンド」は生まれてこなかったかもしれません。

中途半端な規制が、今のような複雑な仕組みのファンドの増加に加担しているとも言えます。

この傾向が続くようなら、堂々と有価証券売却による分配金を認めてタコ足中のタコ足分配を許可した方がマシかもしれません。もしくは一般的な方向として規制を強化するかでしょう。
少なくとも今のような中途半端な規制のせいで、本質的なリスク・リターンを改善する仕組みではなく、分配金原資を増やすための仕組みを組み込んだファンドが増えることは投資家にとってもマイナスです。