吊られた男の投資ブログ (インデックス投資)

投資信託を使った低コストインデックス投資/パッシブ投資(バイ&ホールドの国際分散投資)で資産形成を行っている一般サラリーマンの吊られた男が、主に投資やお金のことについて語るブログ。時々、投資やお金以外の話もします。



規制

ETFへの規制強化の流れ

金融システムと(合成)ETF、そしてそのリスクで、FSB、IMF、BISという国際機関がETFのリスクについて論じていたというレポートを紹介しましたが、その続きです。

野村資本市場研究所が出している「野村資本市場クォータリー 2012 Winter」の研究レポート
複雑なETF 商品に忍び寄る規制強化の兆し

●ETFでは投資家保護のみならず、システミックリスクが懸念されてだしている
●システミックリスクとしてシンセティックETFの仕組み、ETFの取引が市場にもたらすボラティリティが挙げられている


ETFへの規制強化の懸念を受けて、2011年後半にはシンセティックETFから一気に資金が流出しました。以下は『複雑なETF 商品に忍び寄る規制強化の兆し』の3ページに記載されている欧州におけるETFの資金流出入状況です。
SyntheticETF


規制当局はETFの規制を強化する方向で検討していますが、面白いのはETFプロバイダーでも現物拠出型を主軸とするブラックロックとシンセティック型を主軸とするETFプロバイダーで意見が分かれていることです。

ブラックロックは、シンセティックETFがカウンターパーティリスクを受ける点で投資家保護がなっていないと批判し、シンセティックETFプロバイダー側は100%の担保を確保していると反論するなど、やりあっています。
ブラックロックは、現物拠出と違うシンセティック型にはETFのラベルを使わせるべきではないとも主張しているようです。

アンチETFの急先鋒らしいカウフマン財団のハロルド・ブラッドレー氏は、「米国株式市場の売買高のほぼ半分を占めるETFは、潜在的な決済プロセスの失敗に起因するシステミックリスクの源泉となる可能性がある。また、低廉な価格で機動的に売買できる取引の容易さが市場全体のボラティリティを高めている」とまで言い、ETFを目の敵にしているようです。

また、現物拠出型ETFも証券貸出ビジネスでカウンターパーティリスクを取っているという規制当局からの指摘にはETFプロバイダーも否定できていません。

デリバティブへの規制が考えられているようですが、これが進むようであれば複雑な市場に投資するETFの組成が難しくなりそうです。







おかしな分配金をなくす方法

先の分配型投信を上手く規制できるか?で書いたように、日経新聞が報じるような分配金規制は簡単ではないと思います。
その理由は先のエントリーで書いたとおりです。

しかし、今の分配型投信には大いに問題があり、そこはなんとかされるべきです。

まず分配金の仕組みを分かっていない人が相当数います。分配金は自分が信託している財産の中から返ってくるものということを知らなかったり、分配金再投資をしないと資産は増えないと思っていたり。

また、単純に元本を払い戻すことが禁止されているので、運用会社も何とか投資家から預かったお金を分配可能なお金に変換しようと躍起になっています。
配当・利金が高いハイリスク証券を買ったり、為替ヘッジやカバード・コールを利用したりして分配可能なお金に変換しようとします。そのせいで期待リターンを上げるどころか、分配原資を増やすためにはリターンを押し下げることも辞さないようなファンドすら出ています。
 ※参考:分配金規制がおかしな分配金システムを促進する

しかも、その複雑な仕組みのせいで、無知な投資家には分配金の妥当性判断がなおさら難しくなっています。(ハイイールド債のクーポンがX%でレアルの金利がY%で…のように)


しかし、分配金憎しといって、分配金全てを禁止しろとは思いません。そのようなファンドの特性を分かっての上で利用する人がいてもいいでしょう。

分配金のことをロクに説明しない販売側に大きな責任があります。
明らかに誤解させるような説明をする売り手もいます。また説明はしても、都合のいいところだけ強調して取り上げて、都合の悪いところはサラっと流すことが通常です。
そのような販売方法が野放しにされていることこそが問題でしょう。

下手な規制なども受けずに、そのような販売方法をできなくするように分配金とは何ぞやを分かりやすくすればいいのです。

以下は思いつきレベルですが、私が考える分配金対策です。

(1) 分配金の名称変更
分配という言葉の響きが良くない。
「利益を分配する」のように、自分が信託している財産の外から分配されてくるという印象を与えます。
自分のお金が自分に返ってくることを分配と呼ぶことが混乱の大きな要因です。
投資家自身が信託している資産の一部が戻ってくるのですから、「取崩金」という名前ではいかがでしょう。

また、「普通/特別(分配金)」という表現も会計上の概念が優先となっていて分かりにくい。特別分配金などと言うと、何も知らない人に「特別な分配金」と言うとボーナス分配金のことだと勘違いしかねません。
含み損でも分配されることが常態化されて普通のことですから、普通分配金=利益でもないでしょう。
利益分/元本分とでも呼んではどうでしょうか?

整理すると、次のようになります。
 ・普通分配金 ⇒ 利益分払戻金 (もしくは利益分取崩金)
 ・特別分配金 ⇒ 元本分払戻金 (もしくは元本分取崩金)


これでずいぶん、本質的なものと近いイメージになっているような気がします。


(2) 信託財産の取り崩しであること、取り崩し額が運用会社の裁量で決まっていること前面に出した定型説明文書を目立つように配置することを義務化

今でも分配金の金額は分配可能額の範囲内で運用会社の自由裁量で決まります。基準価額が5千円で4千円分配も可能です。

「払戻金は、投資家の皆様が信託されている財産を取り崩して払い戻す制度です。なお、その払い戻し額については基準価額を最大として運用会社の裁量で決定します。」とでも目論見書の目立つ所にデカデカと書かせればよい。販売員の説明でもこれを徹底させます。
安定した分配金を出す毎月分配型については「毎月払戻型の当ファンドは投資家の皆さまからお預かりしている財産を毎月弊社の裁量で金額を決めて払い戻します。なお、払戻金を安定して出すことを考えますので、損失が出ていても払戻金を出すことを優先します。」とでもデカデカと書かせればよい。


「分配型の投資信託は投資家の強いニーズがあるから売れているんだ」という販売側の意見を聞きます。そんなに強いニーズがあるならば、このような説明をされても揺るぐことなく、分配金の特性を知っての上で分配型投信を買うでしょう。



分配型投信を上手く規制できるか?

日経新聞が取り上げたこともあり、投信ブログの間でも「分配金への規制強化の是非」が大きなトピックになりました。

投信「配当しすぎ」に歯止め 金融庁が法改正検討
毎月配当の原資、運用益に限定
(日本経済新聞)
 金融庁はリスクが高く仕組みが分かりにくい投資信託を経験の浅い投資家が購入しないようにするため、投資信託法を見直す。毎月支払われる配当金の原資を運用益に限定したり、人気の高いブラジル関連の投信などで使われるデリバティブ(金融派生商品)の利用を制限したりする措置を検討する。配当のし過ぎに歯止めをかけ、個人投資家が安心して商品購入できる環境を整える。
毎月分配型については、配当の原資を利回りや値上がり益など運用益に限定する規制を検討する。
このため、運用成績が悪いときは配当を制限する方向で調整する。


投信に詳しくない人が書いたせいか用語も統一されておらずよくわからないところがありますが、この報道内容に賛否両論があります。

私は趣旨には同意ですが、この方向で実現する上手い方法が思いつかないので簡単には賛成できません。
報道内容を信じると、分配金の原資が利金・配当や売買益など運用益に限定するようです。しかし、具体的な規制が難しい。

利金を分配原資にできるのであれば、間に一つの運用組織を挟まれた場合に規制できるのでしょうか?
複雑な投資をその運用組織が行い、それに基づいた債券を発行する。投資信託はその債券を組み入れた場合、投資信託は債券からの利金を受け取っているだけです。多少値動きが荒い債券かもしれませんが、入ってくるお金は利金です。
これをどうやって規制するか…

また、運用成績が悪いと分配を制限というところで、各投資家個人の運用成績をベースにするのは難しい。個別元本が5千円の人もいれば1万円の人もいます。基準価額が8000円だったら、分配金はどうする?

おかしな分配金をなくしたいという意義は買います。しかし、それを実行レベルにうまく落とし込む規制は一筋縄ではいかない。



通貨選択型投信の販売規制を強化?

金融庁、「通貨選択型」投信の販売規制を強化(ロイター)
金融庁は、金融機関が「通貨選択型」投資信託を販売する際の規制を強化する。関係筋が5日、明らかにした。投資家が商品のリスクを理解しているかどうか書面での確認を金融機関に求める。監督方針に沿った措置で、年内にも監督指針の改正案を取りまとめる。

金融機関が販売する際、運用する債権などの価格変動だけでなく為替変動のリスクについても投資家が理解しているかを書面で確認させる。


金融庁が通貨選択型投信販売の規制強化に乗り出しました。
具体的には金融庁の「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)の公表についてにある『「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)(新旧対照表)』に書かれています。

これを見ても、根本の欠陥を直さないとあまり意味は無いという印象。

・顧客カードに基づいて販売せよ
・通貨選択型ファンドの商品・リスク特性を理解したという確認書を取れ
・相場が大きく変動したら情報提供したり、レポートを出したりしろ
・元本の安全性を重視する顧客に通貨選択型を売る時は、管理職の承認など慎重に販売管理しろ


通貨選択型について要約するとこんなところです。(他にも「分配金は元本の払戻しになることもあると説明せよ」とももある。こんなことを分かっておらずアタフタする顧客が多いということでしょうが・・・)

あまり実効性があるとは思えません。
「管理職の承認など慎重な販売管理をしろ」と言っていますが、そもそも元本を重視する顧客に対して巷にあふれている通貨選択型を売ること自体が疑問です。(円への為替ヘッジならいざ知らず)
本来なら顧客がリスクを取ってもかまわないと宗旨替えをしてから売るべきものでしょう。元本の安全性を重視する人には上司が承認しても売ってはダメですよ。


また、顧客カードに従って・・・・という指針はむなしく響きます。
日本証券業界が定めている顧客カードの項目は以下の通りです。

【項目】
1 氏名又は名称
2 住所又は所在地及び連絡先
3 生年月日(顧客が自然人の場合に限る。次号において同じ。)
4 職業
5 投資目的
6 資産の状況
7 投資経験の有無
8 取引の種類
9 顧客となった動機
10 その他各協会員において必要と認める事項

サンプルのフォーマットは協会員の投資勧誘、顧客管理等に関する規則の21ページ目にありますが、ほとんど価値は無さそうです。
このようなカードに従ったところで通貨選択型が適切かはほとんどわからないでしょう。

「確認書を取れ」はただのアリバイ作りです。

情報提供やレポート発行は「一時的に外的要因で混乱しましたが、ファンダメンタルは依然として良好で長期時な見通しは変わりません。」のようなポジショントークが繰り広げられるだけでしょう。もしくは"より良い商品"への乗り換えを勧めるか。


そんなことよりも、「高金利通貨が必ずしも有利とは限りません。高金利通貨はその分だけ通貨安になりやすいという購買力/金利平価説という有力な説もあります。」のような情報提供をせよと言った方が効果的だと思います。そのようなことがわかった上でもレアルが有利と思えばレアルの通貨選択型を買えばいい。
うん、実現すれば効果はありそうですが、実現することは難しそうです。



労働問題解決には、規制強化ではなく規制遵守

参考:『議論を避けていいんですか?――“規制”と“規制の監視”の違い』 (ちきりんの“社会派”で行こう!)

「正規社員と非正規社員の格差の問題」、「正規社員でもサービス残業の問題」・・・などなど、いろいろな労働問題が言われています。
このような問題への対応として、派遣の禁止や3年以上の雇用は正規社員へ、のように制度を変えることを提案する意見がありますが、少し方向性が違うと感じています。

今の多くの労働問題は現行制度の下で解決・改善できます。
サービス残業は禁じられています。実態は労使関係があるにもかかわらず形式だけ業務委託として雇用関係はないという主張も認められません。態度が悪いという理由などからのアルバイトへの給与減額なども認められておりません。
業務停止命令という重い処罰もあります。

このように現行制度の下でも数々の労働問題は解決・改善可能なのです。それなのに、多くの労働問題が発生しているのは、せっかくの規制が守られていないことに起因することが多い。不法行為が行われていても、監督官庁は取り締まっていません。

駐車違反をなくすために、駐車違反はダメという法律を設けても期待する効果は得られません。ほとんどの確率で取り締まられないから駐車違反と分かっていても違反行為を犯します。違法駐車の列の隣の歩道を制服を着た警察官が取り締まらずに歩いていきます。

今の労働問題もこれと同じ構図です。制度に問題があるというよりは制度を守らせる力がないということが問題です。これでは多少規制を変えても意味がありません。理想状態を目指す法律を作っても制度を守らせる力がついてこなければ、状況は変わりません。

労働問題解決にやるべきは、まずは現行制度の下で不法行為を行っている企業に対する取り締りを強化することでしょう。取り締まられる可能性が高いとなれば不法行為を行うメリットが薄れ、デメリットが大きくなりますので、それで現状の改善が期待されます。



私の著書 - ズボラ投資
「毎月10分のチェックで1000万増やす! 庶民のためのズボラ投資」
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