吊られた男の投資ブログ (インデックス投資)

投資信託を使った低コストインデックス投資/パッシブ投資(バイ&ホールドの国際分散投資)で資産形成を行っている一般サラリーマンの吊られた男が、主に投資やお金のことについて語るブログ。時々、投資やお金以外の話もします。



マルキール

インデックス投資への批判はOK、でも少しは知識をつけてからお願いします

先の過去の栄光しか語らない人に注意で、愛読者さんから以下のようなコメントをいただきました。
本文とは関係ありませんが、下記のウォール街のランダム・ウォーカーに対するエントリーに対し、何か意見があるようでしたら、ご教示いただければと思います。
http://blogos.com/article/43175/


このリンク先は「マルクスが資本主義に対して加えた批判の全ては正しかった。問題は……」 『ウォール街のランダム・ウォーカー』 という広瀬隆雄氏のインデックス投資とマルキール氏を批判する記事です。

これが典型的な誤解に基づいた批判です。
ウォール街のランダム・ウォーカー』を表紙すら読んでおらず、インデックス投資家の実像も勘違いした批判になっています。

広瀬氏が書かれた文章を引用しつつ、ツッコんでみます。


ウォール街のランダム・ウォーカー―株式投資の不滅の真理

この本のサブタイトルに「株式投資の不滅の真理」という言葉があります。
僕はこの時点で、この本は「終わっている」と思います。

なぜなら長年、投資をやってきて、株式投資に「不滅の真理」など無いと痛感するからです。

それを軽々しくそう言い切るところに、この本の傲慢さがあるし、罪があるのです。

この書き出しで始まりますが、いきなり噴飯ものです。

「株式投資の不滅の真理」は日本語訳版で勝手についたタイトルです。マルキール氏が出した原書にはこのサブタイトルはありません。原書のタイトル/サブタイトルは"A Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing"です。
あくまで「長年の間の実績がある戦略」としか言っておらず、「不滅」とも「真理」とも言っていません。
また、私の手元には1973年発行の初版もありますが、初版は"A random Walk Down Wall Street"だけであり、マルキール氏は長年の実績があるとも言っていません。サブタイトルも実績が出てから付加されたものであり、一体どこが「軽々しく言い切って傲慢」なのだろうか。

広瀬氏はハリウッド映画の邦題が変(例えば、Jerry Maguire→ザ・エージェント)だと、ハリウッド監督たちにタイトルをつけるセンスがないとか、あんなんで「ザ・エージェントとは傲慢だ」とか怒るのでしょうか…


マルキールが「投資のプロ」の意見のいい加減さを証明するために行ったひとつの実験に、次のようなものがあります。

それはコインを何回も投げて、表が出たら上、ウラが出たら下という風にプロットしてチャートを作りました。次にそのチャートをテクニカル・アナリストに見 せて、「このチャートは買いですか、それとも売りですか?」とお伺いを立てたわけです。するとテクニカル・アナリストは「この株は、ガンガンの買いだ!」 と言ったそうです。

マルキールはそれを見て、チャート分析は無意味だという結論に達しました。

このようにマルキールはそれまでウォール街で額面通りに受け止められてきた投資理論やテクニックの限界を次々に指摘したのです。

マルキール氏が、コイン投げチャートでテクニカルアナリストが買いだと騒いだことで投資理論やテクニックの限界を指摘したですか?嘘です。

マルキール氏は、個々のテクニカル戦略 vs バイ&ホールドで優位性があるかという比較をしています。そして、様々な投資理論やテクニックがバイ&ホールドに対して優位性を示せないことを示して、限界を次々に指摘しています。(フィルター法、ダウ理論、レラティブ・ストレングス法、株価-出来高法、チャート・パターンを読む)
コイン投げだけで無意味という結論に達していません。

さて、そのマルキールですが、今年になって「どのアセット・クラスが最も見込みがあり、どのアセット・クラスが最も駄目かの予想リスト」を公表し、米国の投資コミュニティで語り草になっています。

その中で何と彼は:
 
「債券は駄目だ。特に10年債は絶対損するだろう」
「新興国株式がベストだ」
「不動産もいい」

などの御神託を披露したのです。

ガチガチのランダム・ウォーク理論の信奉者で、マルキールの熱烈なファンたちは、このマルキールの発言に目が点になりました。なぜなら、「未来は予見できない」と言った本人が、しゃあしゃあと推奨リストを掲げたからです。

目が点になったマルキール氏の熱烈なファンを私は知りません。
そもそも「ガチガチのランダム・ウォーク理論の信奉者」「マルキールの熱烈なファン」は一致しません。

1973年の初版発行時からマルキール氏の態度は一貫しています。以下は初版からの引用です。
 Now, in fact, the stock market does not quite measure up to the mathematician's ideal of the complete independence of present price movements from those in the past. There have been some very slight dependencies found.
If the narrow form of the random-walk hypothesis is a valid description of the stock market, then, as my colleague Richard Quandt says, "Technical analysis is akin to astrology and every bit as scientific."

読んでの通り、マルキール氏は市場に弱いトレンドが存在することを認め、ウィーク型のランダムウォークの話をしています。
「ガチガチのランダム・ウォーク理論の信奉者」はマルキール氏の教義に反します。
ですから「ガチガチのランダム・ウォーク理論の信奉者で、マルキールの熱烈なファン」という存在が嘘です。

でもCAPMをはじめとする、諸々の投資理論をちゃんと勉強するなら、『ウォール街のランダム・ウォーク』で上っ面だけをサラッと見てわかったような気分になるのではなく、個々の理論の原書(例えば『Portfolio Theory & Capital Markets』William Sharpe)をちゃんと当たる方が、よっぽど勉強になります。

「原書をちゃんと当たる方が勉強になる」はまさに今回の広瀬氏自身に当てはまってしまうのでは。
上っ面(表紙)くらいは『ウォール街のランダム・ウォーカー』の原書を…


別に投資に限らず、どの世界でも:

「これさえやっておけば、OK」

という安易なアドバイスを、素人は求めやすいものです。

これが野球なら、『練習しなくて、イチローのようになれる方法』という本を出せば、まちがいなく世間の笑い物になるでしょう。
良くある誤解です。
株式の素晴らしいところは資本と実務の分離です。ですから実務(野球のプレー)は他人(イチロー)に任せて自分は資本提供側に回れます。自分が野球をプレーできなくてもいい選手に資金を投じることでワールドシリーズを勝つことは可能なのです。


この広瀬氏のような批判は、典型的なインデックス投資への誤解に基づいた批判の一つです。


※参考1:アクティブ vs パッシブ (実力で決まるとしたらどっちが有利)
※参考2:アクティブ vs パッシブ (実力で決まるとしたらどっちが有利) 2







マルキールがヘッジファンドを切る (ヘッジファンドのバイアス)

先のヘッジファンドのパフォーマンスで、ヘッジファンドの生き残り/バックフィル・バイアスに関する実証研究として挙げた、インデックス投資の大御所MalkielとSahaの『Hedge Funds: Risk and Return』の紹介です。

●レポート全文:Hedge Funds: Risk and Return
 MalkielとSahaはTASSのデータベースに登録されたヘッジファンドの数字を使って検証しています。

株式のパフォーマンスを測定するには株式のトラックレコードがあります。
ヘッジファンドにもトラックレコードがあり、いくつかのデータベースも存在します。

しかし、ヘッジファンドのトラックレコードには大きなバイアスの存在が指摘されています。代表的と言われるのが生き残りバイアスバックフィル・バイアスです。


【生き残りバイアス】
資産運用の世界ではパフォーマンスが悪ければ市場から撤退を迫られます。その結果、パフォーマンスが良いものが生き残り、データに残ります。その結果、全体の実態以上に好成績になることがあります。
特に成功報酬を収益源とするヘッジファンドの場合は拍車がかかります。一度パフォーマンスが悪化すると、成功報酬を得られる水準まで回復するのが困難になります。そこで、ファンドを解散して新しいファンドで資金を集めればゼロからのスタートです。

MalkielとSahaは1996年-2003年のヘッジファンドで「生き残っているファンドのみ」 vs 「生き残り+退場」のパフォーマンス差を計算しました。
Malkiel01
※Note: Backfilled returns were not included in this analysis; live versus defunct status was determined
as of April 2004.

結果は、上のように平均で4%ポイント以上の差がありました。


【バックフィル・バイアス】
事後に、運用してみて調子の良かったファンドの成績だけ報告し、調子の悪いファンドの成績は報告しないというバイアスです。(ヘッジファンドのパフォーマンス報告は任意かつ内容の正当性は問われないので、ヘッジファンドが好きに選べます)

MalkielとSahaはバックフィル・バイアスに関しては1994年-2003年のデータを分析しています。
「バックフィルのあったモノ」「バックフィルのなかったモノ」を比較しています。
Malkiel02

Malkiel03

上は平均(mean)、下は中央値(median)です。
「バックフィルのあったモノ」「バックフィルのなかったモノ」では平均では7%以上、中央値では6%弱の差があります。



トラックレコードを使ってヘッジファンドのパフォーマンスを測定する場合、そのデータには十分な注意が必要です。

ちなみにタイトルはRisk and Returnであり、後半ではヘッジファンドと投資信託のリスクも測定しています。



経営陣は現場に詳しい必要は無い

経営陣のようなトップレベルの人が現場に詳しくないことを批判する意見を時々聞くことがあります。しかし、これは適切な批判とは言えないでしょう。

全体を語る人は個別の細かい情報まで知る必要はなく、全体的に合理的な判断が下せるのであれば構いません。現場の細かい事象を知らなくてもいいのです。
総理大臣がカップラーメンの値段を知っておく必要は無いでしょう。IT企業のトップがルーターの設定やOracleのバックアップの取り方やPerlでのプログラミング・・・等々を全部知っている必要はありません。

投資の世界に当てはめると、マルキールやボーグルなどに代表されるような大御所からFPのように投資家へのアドバイスをする人たちがどうあるべきか、ということになります。
マルキール氏が「日本版ISAがどうなりそうか」「日本の個人型確定拠出年金でどの金融機関が安いか?」「日本の現時点の信託報酬最安のファンドの信託報酬がいくらか」「フィリピンの証券課税制度の税率や優遇措置がどうなっているか」を知らないとして、彼らの話が全くあてにならないのでしょうか?そんなことはありません。
一般論を話すのは、企業におけるハイレベルな経営判断と同じです。これはマルキール氏のような大御所だけに限らず、一介のFPでも一般的な話をする際には細かい項目の知識が無いことは問題にならないことが多々あります。

ただし、FPへの個人相談のような場所でポイントを絞った具体的な細かいアドバイスを求める場で、必要な細かい知識が無いのは問題です。しかし、一般的な投資の心構えや方針のような話をする時には具体的な細かい知識の欠如はあまり問題になりません。

「あいつらは現場を分かっていない」と文句を言う人は、狭い分野の専門知識の多さで自分を特別と思いたいのかもしれませんが、残念な人でしょう。



『ウォール街のランダム・ウォーカー』 "A Random Walk Down Wall Street" 初版

とりあえず入手してみました。

ARandomWalk_1.jpg






ARandomWalk_2.jpg









英語なので時間がかかりそうですが、私が今まで読んだ最近の日本語の版とどれほど違うのか? マルキールの考えはどのように変わってきたのか(または変わっていないのか)? をポイントに読み見進めていきたいと思います。






私の著書 - ズボラ投資
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