吊られた男の投資ブログ (インデックス投資)

投資信託を使った低コストインデックス投資/パッシブ投資(バイ&ホールドの国際分散投資)で資産形成を行っている一般サラリーマンの吊られた男が、主に投資やお金のことについて語るブログ。時々、投資やお金以外の話もします。



デフレ

浜田宏一氏はインフレ→実質賃金低下→雇用回復って言うけれど

浜田宏一・内閣官房参与 核心インタビュー (ダイヤモンド・オンライン)
 物価が上がっても国民の賃金はすぐには上がりません。インフレ率と失業の相関関係を示すフィリップス曲線(インフレ率が上昇すると失業率が下がることを示す)を見てもわかる通り、名目賃金には硬直性があるため、期待インフレ率が上がると、実質賃金は一時的に下がり、そのため雇用が増えるのです。こうした経路を経て、緩やかな物価上昇の中で実質所得の増加へとつながっていくのです。

 その意味では、雇用されている人々が、実質賃金の面では少しずつ我慢し、失業者を減らして、それが生産のパイを増やす。それが安定的な景気回復につながり、国民生活が全体的に豊かになるというのが、リフレ政策と言えます。
 よく「名目賃金が上がらないとダメ」と言われますが、名目賃金はむしろ上がらないほうがいい。名目賃金が上がると企業収益が増えず、雇用が増えなくなるからです。それだとインフレ政策の意味がなくなってしまい、むしろこれ以上物価が上昇しないよう、止める必要が出て来る。こうしたことは、あまり理解されていないように思います

内閣官房参与で安倍政権の金融政策に影響を与えているといわれる浜田宏一氏のインタビューです。
端的にまとめると「期待インフレ率が上がる→実質賃金が下がる→雇用が増える→生産のパイが増える→安定的な景気回復→国民生活全体が豊かになる」という流れになるとのロジックです。(以後、これを「浜田ドミノロジック」と称します)
しかし、このロジックの通りに物事が進むかが疑わしいのです。

日本の実質賃金の推移を見てみます。
1998年を100として以下の項目をグラフ化してみました。(1998年を選んだ理由はこの年が明確に日本がデフレに陥った年だから)
  ・名目賃金
  ・CPI(総合)
  ・CPI(コアコア)
  ・実質賃金(給与/CPI総合)
  ・実質賃金(給与/コアコアCPI)
Chingin01
※名目賃金は「民間給与実態統計調査」の平均給与を用いています

グラフにあるように、日本は近年「インフレ率>名目賃金賃金の伸び⇒実質賃金低下」です。浜田氏は期待インフレ率が上がると実質賃金が下がると言っていますが、そんなことをしなくても総合でもコアコアでも実質賃金は下がっています。

浜田ドミノロジックでは国民生活全体が豊かになる第一歩として「期待インフレ率を上げる」こととしていますが、そんなことをしなくてもデフレ下においてすでに2番目の「実質賃金が下がる」というドミノは倒れているのです。

しかし、「実質賃金が下がる」という2番目のドミノが倒れているのに浜田ドミノロジックにある最後のドミノである「国民生活全体が豊かになる」は倒れていません。
一時的に実質賃金が下がれば…と言われていますが、浜田氏の言われている一時的とは具体的に何年間なのでしょうか。10年では不十分で20年間耐えればいいのでしょうか。


浜田氏はフィリップス曲線の話を拡大解釈しているように思えます。
フィリップス曲線が示しているのは「実質賃金の低下→失業者の減少」までです。その先の「生産のパイが増える」以降は説明していません。


確かに実質賃金の低下が失業者を減らすことに貢献しているかもしれません。
「民間給与実態統計調査」から「雇用者数」を見ても1998年からは140万人ほど増えています。
Roudousha-sho

失業率で見ても就職氷河期と言われた時期の最悪の数字5.4%(2002年)にとどまり、最近の金融危機で諸外国の失業率が跳ね上がる中でも日本は3.9%→5.1%程度までしか失業者は増えませんでした。
1998年→2011年で見ると浜田氏が主張するように「実質賃金の低下」と「雇用者増加」が起こっていると言えそうです。
しかし、「雇用者増加/失業率低下→生産のパイが増える」とは簡単に結びつきません。


マクドナルドで賃金が安くなったからたくさんアルバイトを雇ったとしても(=実質賃金低下→雇用増大)、売れるハンバーガーやポテトの数が増えるわけではありません。売上を増やすのは顧客の需要です。
シャープの液晶パネル工場で賃金が安くなったからといって工員を雇って(=実質賃金低下→雇用増大)、液晶パネルの生産量を増やすわけではありません。需要があるからこそ作るのです。

需要>供給能力の超過需要であれば労働力が増えた場合には生産のパイが増えます。しかし、現在の日本のように供給能力>需要という局面では賃金低下が生産のパイ拡大にはつながらないでしょう。
個別の産業を見れば、介護のように超過需要になっているものもあります。しかし、このような所は賃金が安すぎて人が集まらずに供給力不足になっているくらいなので、更なる賃金低下が雇用を増やすかは非常に疑わしい。

本題に戻ります。
需要は購買力があってこそ生まれます。100万しかお金がなければ100万円分しか買えません。最貧困層に向けて高級スポーツカーを作っても売れません。売れなければ作りません。。


日本の購買力ってどうなっているの?
実際には金利所得などいろいろありますが、雇用の話に絞ってものすごく単純化すると「購買力=稼いだお金」です。これを日本全体に拡大すると「購買力=日本の総賃金」です。(実際には自営業とかいろいろいます。今回は雇用の話に絞って超単純化しています)

「雇用者数」が増えても、1人当たりの実質賃金が下がって日本の「総賃金」が増えなければ、購買力は増えず需要は増えません。
「民間給与実態統計調査」から「総賃金」のデータを見てみます。
SouKyuuyo

総賃金そのものは下がっています。

「総賃金」については実質賃金同様に、物価を考慮した「実質総賃金」はどうなんだという意見もあると思われるので、実質賃金同様にインフレ率を考慮して「実質総賃金」を求めてみます。
Jisshitu_SouKyuuyo

実質賃金同様、実質総賃金も減少しています。
日本ではデフレ下で実質賃金を下げて雇用者数を増やしてきましたが、総賃金が減少してきました。
ただでさえ需要が不足していたのに、さらに実質総賃金≒購買力が減少しているので、需要が増えることも難しくなっています。

1998年からの「実質賃金低下&雇用者増加」局面を見ると、「雇用が増える」というドミノが倒れたとしても「生産のパイが拡大する」というドミノを倒すわけではなさそうです。

そうすると、「期待インフレ率が上がる」ドミノが「雇用が増える」ドミノを倒して、「雇用が増える」ドミノが「生産のパイの拡大」ドミノを倒して…という浜田ドミノロジックで最後までドミノが倒れるかはかなり怪しそうです。







インフレ率と失業率の関係 (続・やはりよく分からないデフレが治れば何でもできる論)

先の「やはりよく分からないデフレが治れば何でもできる論」の後篇です。

前回はインフレ率のみを載せましたが、その時に景気がどうなっているかを比較してみたいと思います。比較する指標として庶民の景気の目安になりそうな失業率を並べてみます。(GDPを使うと、GDPが増えても雇用が増えないとか給与が増えない…で意味が無いという反論も出る)

下の背景黄色部分がインフレ率と失業率の相関係数です。同年と書いたのはその年のインフレ率と失業率の相関係数です。
※インフレ率と失業率の相関なので、相関係数が高いとインフレ率が上がると失業率が上がる関係
Inflation_employee

これを見る限り、インフレ率と失業率の間の相関は-0.66〜0.63となっておりバラバラです。少なくとも同時期のインフレ率と失業率の間には明確な関係は読み取れません。

因果関係があっても効果が出るのに時間がかかることもあります。
時間差を考慮して「ある年のインフレ率が1年後の失業率に影響を与える」のではないかと考えた場合の相関係数も計算してみました。それが、「1年後」です。
データが10年分での分析ですので、1年後にずらすと「2011年のインフレ率→2012年の失業率」が最後となってN数が9になっています。これを見てもインフレ率と失業率に明確な傾向はなさそうです。

上のようにマイルドなインフレを実現していながらも高い失業率と財政問題を抱える国を見ると、デフレを克服してマイルドなインフレになれば一気に全てが解決するかのような話には大いに問題があるように思えます。



やはりよく分からないデフレが治れば何でもできる論

選挙の争点の一つに日銀法の取り扱いが出てくるように日銀の政策が注目を集めています。
さらに言うと、デフレ克服に向けた日銀のさらなる緩和に注目が集まっています。「日銀がデフレ対策をしないから日本は長年苦しんで不況なんだー」という勢力すらあり、彼らはデフレが諸悪の根源でデフレさえ解決すれば全てがうまくいくかのような主張すらしています。

しかし、インフレ・デフレと好景気・不景気の関係(The Goal)ではイギリス及びアメリカが取り上げられていますが、非デフレ(数%程度のインフレ)の国でも景気に大きな問題を抱えている国が多々あります。

注目を集めているいくつかの先進国の過去10年のインフレ率のデータを見てみました。(発展途上国は急成長&高インフレの国が多く比較には不適と判断したため)
Inflation_Rate
(データはIMF The World Economic Outlook 2012/10 Edition。2012年は予測値)

敢えて国名は伏せましたが6か国を抜粋しています。多くの国は2009年にインフレ率が下がって、いくつかの国ではマイナスになるほどでしたが、その後インフレ率はプラスに戻って1%〜4%台というところです。B国あたりは2009年の前が2%〜3.5%で、そこに戻ったというところか。
A国の2010年、E国の2011年のように4%というのは少し高いかもしれませんが3%台くらいまではマイルドなインフレと言えるのではないでしょうか。(実際各国が好景気に沸いた2005-2007年は2-3%台)

A〜Fに国名を入れると下記の通りです。ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインとユーロ圏で話題の国々及び、インフレ・デフレと好景気・不景気の関係(The Goal)も取り上げられたイギリスとアメリカです。
Inflation_Rate

ポルトガルやスペインは2009年のインフレ率マイナスから見事に立ち直ってインフレ率はプラスですが、日本と違って景気や雇用の状況が素晴らしいという話は聞きません。

このヨーロッパの問題諸国のインフレ率を見る限り、デフレを克服さえすれば景気は良くなるというストーリーが成立するようには思えません。



荻原博子理論が熱い (5%も投資で増やすのは難しいが、デフレで5%物価が下がれば5%の利子と同じ。だから貯金)

検索していてひっかかたのでご紹介。

このブログでも何度がご登場いただいている荻原博子氏。その荻原氏の記事がありました。
「60歳までに老後資金を貯める」は危険思想 (Family)

前半は老後資金や住宅ローンなどの話なのですが、「アンチ投資、貯金推奨派」の荻原氏だけあって、最後の2段落に反投資を書くことを忘れない。

 もちろん、余裕があるなら貯蓄をするのは無駄なことではないが、それを運用して少しでも増やそうとするのは考えものだと荻原さんは言う。
「今の日本経済はデフレの時代。デフレとは物の値段が下がり続けることで、物の値段が下がった分、貨幣の価値は上昇します。簡単に説明すると、今1万円の物が翌年には9500円で買えるということ。つまり、1万円を1年間、温存させるだけで、品物に加えて500円のおつりまでくるわけです。これは1万円をただ持っているだけで5%の利子がついたのと同じことになるんですね」

 それに比べて、超低金利のこの時代に、5%で運用できる金融商品は、大抵、リスクも高く、ヘタをすると損をする可能性も。
「バブル期には多くの人たちが株を買い、不動産に投資をしましたが、最終的に得をしたのは何にも手を出さなかった人たち。不況下にある今の時代でも、現金で地道に蓄えたほうが、最終的には得をするのです」

カッコの外は上島寿子氏の文章なので荻原氏が直接書いた内容ではありませんが、荻原節全開と言ったところです。

「デフレだと貨幣の価値が上昇する」は正しい。
「簡単に説明すると、(デフレだと)今1万円の物が翌年には9500円で買えるということ」という表現は現実と連動しない例として使うのはいいです。

しかし、現実の日本のここ10年(2002年〜2011年)のインフレ率推移は以下の通りで、物価指数(CPI)は101→99.7とわずかな物価下落にとどまっています。
 +0.90% → -0.25% → -0.01% → -0.27% → +0.24% → +0.06% → +1.38% → -1.34% → -0.72%, -0.29%

-5%というバーチャルなインフレ率を持ち出して「それに比べて、超低金利のこの時代に、5%で運用できる金融商品は、大抵、リスクも高く、ヘタをすると損をする可能性も」と現実世界の投資パフォーマンスと比較してはいかんです。

確かに年5%のパフォーマンスを出すのはそう簡単な話はなく、相応のリスクを伴います。これも全くもって正しい。
しかし、それ以上に5%のデフレで実質価値を5%高める方がはるかに困難です。(そもそも年率5%もデフレが進行していくような国になったらどうなる…)

記事中では5%という数字を基準として「デフレ vs 投資」比較をしていましたが、現実のインフレ率(デフレのパフォーマンス)の数字であれば、それほどリスクが高くない投資で稼ぐことは十分に可能です。例えば、10年国債をラダーで買っていけば十分でしょう。


投資を嫌うのはいいのですが、年率5%のデフレという架空の数字を持ち出して「5%を投資で稼ぐのは難しいから投資は危険」というような記事は賛同できかねます。



デフレって何だろう?

ここ最近疑問に思っているテーマのひとつが「デフレの定義」です。

皆が気軽に使っている「デフレ」という言葉ですが、「デフレ 定義」でGoogleしてもいくつか同じような話が出てくるようにデフレの定義は意外と簡単ではないトピックです。

平成13年3月に出された内閣府政策統括官の岡本直樹氏のペーパーを見てもそれが伺えます。
2001年の時点ではデフレの定義として以下のようなものがありました。
(1)(物価動向にかかわらず)不況、景気後退をさす場合
(2)物価の下落を伴った景気の低迷をさす場合
(3)物価の持続的な下落をさす場合


日本政府は2001年になって「物価の下落を伴った景気の低迷をさす場合」から「物価の持続的な下落をさす場合」に定義を変えたとのことです。たったの10年前です。
テレビなどの議論でも定義が定まっていない印象があります。日本政府が10年前くらいまで採用していたくらいですからデフレに景気低迷の意味を持たせている専門家も多いようです。どうもデフレ=不況を自明かのように話をされることもあります。
まずはこの基本的な定義で躓きます。デフレに不況がビルドインされているのであれば、上のペーパーにあるように「良いデフレ」「悪いデフレ」の議論が成立しなくなります。


仮にデフレの定義を「物価の持続的な下落をさす場合」としても、何を物価とするかも大問題です。
CPI総合でしょうか?生鮮食品を除いたコアCPIでしょうか?エネルギーまで除いたコアコアCPIでしょうか?これだけで大きく異なります。エネルギーが継続的に上昇していくと、CPI総合ではインフレで、コアコアCPIではデフレという現象も起こりえます。
NIRAのレポートにもあるように、インフレ・ターゲットを採用している国でも、そのインフレ指標は総合CPIを中心としつつも、各国でも様々な考え方があるということです。

また、GDPデフレーターを指標にすべきという意見もあります。CPIはインフレでGDPデフレーターはデフレという現象も起こりえます。


日ごろから簡単にデフレという言葉を使っていまうが、何をもってデフレとするかは意外と簡単ではないのかもしれません。



私の著書 - ズボラ投資
「毎月10分のチェックで1000万増やす! 庶民のためのズボラ投資」
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