吊られた男の投資ブログ (インデックス投資)

投資信託を使った低コストインデックス投資/パッシブ投資(バイ&ホールドの国際分散投資)で資産形成を行っている一般サラリーマンの吊られた男が、主に投資やお金のことについて語るブログ。時々、投資やお金以外の話もします。



コスト

コストは期間が長いほど投資パフォーマンスへの影響度が大きくなる

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投資のパフォーマンス、特に投資信託の話をする時にコストの重要性は意見が割れることがあります。

例えば以下はその一例です。
  • コスト重要派
    • 値動きはどうなるか分からないが、売買手数料や信託報酬でかかるコストは確実
    • 期待リターンが数%/年の中で0.数%/年は十分に影響は大きい
  • コストはそれほど重要じゃない派
    • 株なんて1日でも数%、月や年なら数十%も動くのだから年0.数%程度のコストなんて大したことない

    そこで、「コストが投資パフォーマンスにどれほど影響力があるのか」を少し整理します。

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投資にかかるコストを軽視するな

投資をする際には、様々な局面でコストが発生しています。

・売買手数料
・為替両替手数料
・買い/売りのスプレッド
・投資信託の信託報酬
・口座維持手数料
・信用取引の金利
・税金
・等々…

これらのコストは投資のパフォーマンスを押し下げる要因になります。
よくあるシミュレーションでは上記コストを考慮しないもの(考慮しても一部のみ)が多いのですが、現実の投資パフォーマンスでは上のようなコスト控除後が投資家の受け取るリターンです。

FXでも細かいトレーディングを繰り返してスリッページが発生する場合はシミュレーションと大きく結果が変わってくるでしょう。
口座維持手数料無料で売買手数料0の投資信託をバカみたいに保有する場合でも、信託報酬が0.5%なら100万円の資産に対して年5千円(1千万円なら5万円)を取られていることになります。年5万円ともなれば、月1回(4000円)の飲み会代に相当します。
また、直接コストと明記されていなくても債券のように取引価格そのものの中に金融機関取り分の手数料が含まれている場合もあります。

デイトレのように売買でコストがかさむ運用方法の場合は当然ですが、ある程度の期間の保有を前提とする投資においてもコストの影響を受けることは多々あります。
コストは投資のパフォーマンスに直結する要因ですので、これは非常に重要です。



アクティブファンドにはインデックスファンド以上に金融機関側の利益が上乗せされている?

バンガードのファンド経費(エクスペンス・レシオ)の情報から思っていることです。

バンガードのサイトに行くとエクスペンスレシオに関する以下の情報があります。(2011年12月31日時点)
 ●バンガードのファンドの平均エクスペンスレシオ:0.20%
 ●業界のファンドの平均エクスペンスレシオ:

アクティブ/インデックス毎にも同じ情報が出ています。
 ●バンガードのアクティブファンドの平均エクスペンスレシオ:0.28%
 ●業界のインデックスファンドの平均エクスペンスレシオ:1.30%
 ●バンガードのインデックスファンドの平均エクスペンスレシオ:0.16%
 ●業界のインデックスファンドの平均エクスペンスレシオ:0.85%


表にまとめると以下の通りです。
Vanguard_fund_expenseratio


バンガードにしろ業界にしろコストは【アクティブ>インデックス】の傾向があります。
実際にはアセットの違い、分配頻度の違い、資産規模の違い、利益の上乗せ幅の違いなどの要因がありますが、ここからはアクティブの方がインデックスよりコストがかかっているのではないかとも推測できます。

特にバンガードのアットコストと素晴らしき仕組みでも書きましたが、バンガードはアットコストという理念のもとにファンドを運用しています。
バンガードのファンドが理念通りに運用されているならば、コスト+事業継続のために必要な利益分以外は取らないということですので、それなりにいい感じにアクティブvsインデックスの比較ができそうです。
(分配頻度に関して言えば、アクティブとインデックスの大きな違いは、アクティブは毎月分配が50%程度に対して、インデックスは四半期毎が45%程というところ。1年分配はアクティブ35%、インデックス40%と大きな差はありません)


そんなバンガードの数字を見て気になるのが、アクティブとインデックスのエクスペンスレシオの差です。

表にあるようにアットコスト方針のバンガードでは0.12%程度の違いですが、業界平均では0.45%です。アセットの違い、分配頻度の違い、資産規模の違いなどの原因も考えられますが、「アクティブファンドの方が金融機関側の取り分をより多く上乗せしているのではないか?」という疑問が湧いてきます。


非常に荒い試算ですが「アクティブは運用コストがかかって大変なんだ」と言うついでに取り分も上乗せしている仮説程度は立てられそうです。



「投資信託でコストは重要」への反論

先の「何故、投資信託でコストを重要視するのか」というエントリーで、投資信託において高コストの投信は低パフォーマンスの傾向があるという話をいくつかの実証研究を紹介しながら書きました。
しかし、誰もがそれを盲目的に受け入れているわけではありません。

ちょうどこの10月にもタイムリーに反論記事が出ていました。
 ・A 401k Must Read: Mutual Fund Expense Ratio Myth Busted (Fiduciary News)

この記事では、以下のようなグラフを示しています。これは2012年8月31日のデータを使い、ファンドの2011年の年間リターン及び10年間の年平均リターンのグラフです。
Active-2011-Scatter-Graph Active-Total-Return-Annualized-10-Years
2011年の年間リターンについては補足が必要でしょう。
これだけでは「何だマイナスの相関なんだから反論になってないじゃないか」で終わってしまいます。
このレポートでは、インデックスファンドも同じ条件でコスト/リターンでマッピングして相関係数を計算しています(リンク先を見てください)。その時は相関係数は-0.92でした。一方、アクティブファンドでは負の相関ですが相関係数は-0.18です。
インデックスファンドではコストとリターンの関係は明白だが、アクティブではインデックスほどコストがリターン差を決める決定力は無いことを示しています。

10年のグラフでは正の相関となっており、これはそのままで反論に使えるグラフです。



何故、投資信託でコストを重要視するのか

投資信託の特徴的な点として保有している期間に保有コスト(信託報酬)がかかるという特徴があります。

そして、一部の投資信託を使った投資家やFPや評論家からは「コストは重要だ。コストが高い投資信託は良くない」という声が聞かれます。
これは何故か? それはコストが投資家の利益に直結するからです。

投資信託において、投資家のリターンは以下のようになります。
 ・[投資家のリターン]=[コスト控除前の投資信託の利益]-[コスト]

つまり、[コスト]が増えると[投資家のリターン]は減ります。それで「コストは重要だ。コストが高い投資信託は良くない」という意見が出てきます。


上記の説明で納得されたでしょうか?


そうだとすれば問題ありです。


上の議論には致命的な欠点があります。

単純に右辺の[コスト]だけ増加する場合を考えて[投資家のリターン]が下がるとしており、[コスト控除前の投資信託の利益]を無視しています。
一般的な世の中の商品(例えば家電/家具など)を見ると[コスト]の増加は[商品の性能/品質]の上昇に繋がります。つまり、[コスト]が増えても、それによって[商品の性能/品質]がそれ以上に増加すれば、[消費者の利益]は向上します。

投資信託のコストにおいても同様に、高いコストが、それ以上のリターンを生み出しているのであれば高コストは善です(少なくともマイナス要因ではない)。



では、コストが高い投資信託はそのリターンを高めているのでしょうか?

結論を言えばNoです。多くの実証研究で否定的な結果が出ています。

その一つとして竹中正治氏の分析(2007, 日経ビジネス)があります。
2007_Takenaka_fund_analysis
上の図表は竹中氏の分析から引用したものですが、表に注目です。年率コストで2%未満と2%以上の二群に分けて比較するとコストが高い群のリターンが1.27%も低い結果になっています。コスト差が1.14%なので、このパフォーマンス差のほとんどはコスト要因になります。
また、竹中氏は2007年だけではなく、その後も同じように分析をしています。2011年12月時点のデータで分析した結果は竹中氏のブログに公開されており、ここでも高コスト→低パフォーマンスという傾向が出ています。(コストが高ければ必ずしもパフォーマンスが悪い、というわけではない)


さらに竹中氏は、私のお気に入りである『インデックス・ファンドの時代』の著者でありバンガードの創設者であるボーグルがアメリカの株式ミューチュアルファンドについて調べたデータも示しています(下記)。ここでも、四分位で分けて、高コスト群→低パフォーマンスという傾向が出ています。
bogle_fund_analysis

ボーグル氏は10年以上前の1999年に出版された『インデックス・ファンドの時代』の中でもアメリカのミューチュアルファンドのリターンをコストで四分位に分けて分析しており、ここでも高コストになるとパフォーマンスが悪くなるという傾向が出ています。

他にも今も輝く名著である『ウォール街のランダム・ウォーカー』でもそのような話が出ていますし、そのランダム・ウォーカーで参考資料として示されているM.Carhartの『On Persistence in Mutual Fund Performance』でもコストはパフォーマンス低下要因という結果が出ています。


電化製品のようにより高い金を払ったんだから、より良いものを提供してくれることを投資信託にも期待したいものです。しかし、実証研究は残念なことにそれを支持してくれません。

 ・コストが高いファンドはパフォーマンスが悪いという傾向
 ・世の中の多くの凡人投資家が将来に成績の良いファンドを今時点で当てることは極めて困難
この2点を前提にすると、コストが高いファンドを避けることは将来の高パフォーマンスの可能性を高めることになります。だから「コストは重要だ。コストが高い投資信託は良くない」と言うのです。


もちろん「コストが高くても成績がいいファンドがあって、そういうファンドを買えばいい」と、将来の結果を見ることができる稀有な人には当てはまらないので、そういう投資の才能のある方は凡人と同じ運用をする必要は全くないでしょう。



私の著書 - ズボラ投資
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