先日,Twitterでトレンドを見たら「日本郵政」という文字が目に飛び込んできました。なんだろうと思いタップしてみると,以下の朝日新聞の記事を元にしたツイートが多数ありました。
正社員の待遇下げ、格差是正 日本郵政が異例の手当廃止 (asahi.com)
日本郵政グループが、正社員のうち約5千人の住居手当を今年10月に廃止することがわかった。この手当は正社員にだけ支給されていて、非正社員との待遇格差が縮まることになる。「同一労働同一賃金」を目指す動きは広がりつつあるが、正社員の待遇を下げて格差の是正を図るのは異例だ。
政府は非正社員の待遇が、正社員の待遇に引き上げられることを想定。非正社員の賃金を増やして経済成長につなげる狙いもある。ただ、日本郵政グループの今回の判断で、正社員の待遇を下げて対応する企業が広がる可能性がある。
記事の論調と同じで,ツイートも非正規の待遇を上げるのではなく正規の待遇を下げることで格差縮小するというのはとんでもないというものがほとんどでした。
しかし,私は記事を読んでいて違和感がありました。そんな簡単に組合がほとんど引き下げばかりの改定で折り合うのか,と。そこで同じことを報じている記事はないかと「日本郵政」でGoogle先生にお伺いをしたところ,日経新聞の記事が見つかりました。
日本郵政、住居手当を一部廃止 非正社員との格差是正 (日経新聞)
日経の記事は朝日とだいぶ論調が違います。朝日の記事では年始勤務手当については記述がありましたが,ほかの説明はありませんでした。
正社員の一部待遇引き下げはありますが、正社員の待遇を下げて対応するというよりは、非正社員の引き上げと正社員の引き下げを同時に行っています。
日本郵政グループの社員は正社員・非正社員ともに20万人くらいずついます。そして,正社員と非正社員の格差がどれくらいあるかというと,日本郵政の勝野専務(当時)によれば,626万円と231万円ということのようです。(
http://www.jcp-umemura.jp/kokkai/kokkai-3053)
これは管理職なども含む数字なので,そのまま格差だと言ってはいけませんが,これくらいの違いはあるとのことです。
また,日本郵政については以下のような判決も出ている点も見逃せません。
非正社員が半数の日本郵便、格差是正を迫られる判決
契約社員の格差、一部違法=日本郵便に賠償命令−大阪地裁
まさに今回の朝日新聞が図で取り上げていた5つの手当のうち3つ(年末年始勤務手当,住居手当,扶養手当)や病気休暇が,これらの裁判で言及されていて,不合理な格差と指摘されています。
このように同一労働同一賃金とかけ離れていると怒られてしまった日本郵政としては,これを受けての春闘と考えると,何らかの方向性を示さないといけなかったのでしょう。その結果,扶養手当は継続審議となったようですが,他の格差は解消する方向となったようです。
ただし、会社も資源は有限ですので,全部増やす方向での対応は難しく,本来必要ではないケースの住居手当を削減したり,年末手当を削減したり,としたのでしょう。また,病気休暇などもコストアップにつながるので,そこらの原資確保のために寒冷地手当,遠隔地手当なども縮小される模様。
朝日新聞には見出しに「異例」とつけてみたり(手当の削減自体はよくある話で異例でも何でもない),非正社員の待遇改善に意図的と思えるくらい言及されていませんでした。一方,M&Aなどに関しては筆が滑ることがしばしばある日経新聞ですが,比較的この記事に関しては冷静な論調に思えました。
朝日新聞は無料で読める記事でしたが,日経新聞は有料会員(もしくは無料会員で限定10記事/月)でないと読めない記事だったためか,削除ばかりを書いた朝日新聞の記事が拡散していたようです。
そして,その記事やコメントを読んだ人が,待遇改悪ひどいというようなことをつぶやき,それを見た他の人も……という構図でした。
冷静に考えると,「賃金で一部の人が不当に高い報酬を受け取っている」(裁判でもそのような判決が出ている)ことを少しだけ是正するという話であって,日本郵政がとんでもない判断をしたというような話ではありません。
すでに「マスゴミ」などと揶揄されるように昔ほどの絶対的な信頼感はありませんが,依然といて大手メディアの記事への信頼は厚く,今回のように報道内容が偏っていた場合は危険ですね。できるだけ複数ソースから確認する癖をつけておきたいものです。
日本郵政は、グループの正社員の住居手当を一部廃止する。引っ越しを伴う異動のない一般職約5千人を対象に、10月から支給額を年10%ずつ10年かけて減らす。
削減分はグループの半数を占める非正社員の待遇改善に充て、現場の人手確保につなげる
郵政グループは今年の春季労使交渉で、日本郵政グループ労働組合(JP労組)の要求に応じ、非正社員にも正社員と同様に1日4千円の年始手当を支給することなどで合意した。非正社員向けに病気休暇の新設や一時金引き上げも決めた。
日経の記事は朝日とだいぶ論調が違います。朝日の記事では年始勤務手当については記述がありましたが,ほかの説明はありませんでした。
正社員の一部待遇引き下げはありますが、正社員の待遇を下げて対応するというよりは、非正社員の引き上げと正社員の引き下げを同時に行っています。
日本郵政グループの社員は正社員・非正社員ともに20万人くらいずついます。そして,正社員と非正社員の格差がどれくらいあるかというと,日本郵政の勝野専務(当時)によれば,626万円と231万円ということのようです。(
http://www.jcp-umemura.jp/kokkai/kokkai-3053)
非正規社員を、同じ勤務日数、一日当たり八時間勤務として、二〇一四年度の実績から平均年収を推計いたしますと、正社員の、これは管理職も含みますけれども、平均年収は約六百二十六万円、非正規社員の平均年収は約二百三十一万円というふうになります。
これは管理職なども含む数字なので,そのまま格差だと言ってはいけませんが,これくらいの違いはあるとのことです。
また,日本郵政については以下のような判決も出ている点も見逃せません。
非正社員が半数の日本郵便、格差是正を迫られる判決
契約社員の格差、一部違法=日本郵便に賠償命令−大阪地裁
契約社員には支給されない年末年始勤務手当(1日4000〜5000円)や、転居を伴う異動がない正社員に支給される住居手当(月最大2万7000円)の格差を不合理と判断した。
正社員が対象の扶養手当(配偶者で月1万2000円など)についても「生活保障給の性質があり、職務内容によって必要性が大きく左右されない」と述べ、不合理と認めた。
まさに今回の朝日新聞が図で取り上げていた5つの手当のうち3つ(年末年始勤務手当,住居手当,扶養手当)や病気休暇が,これらの裁判で言及されていて,不合理な格差と指摘されています。
このように同一労働同一賃金とかけ離れていると怒られてしまった日本郵政としては,これを受けての春闘と考えると,何らかの方向性を示さないといけなかったのでしょう。その結果,扶養手当は継続審議となったようですが,他の格差は解消する方向となったようです。
ただし、会社も資源は有限ですので,全部増やす方向での対応は難しく,本来必要ではないケースの住居手当を削減したり,年末手当を削減したり,としたのでしょう。また,病気休暇などもコストアップにつながるので,そこらの原資確保のために寒冷地手当,遠隔地手当なども縮小される模様。
一つのメディアの情報をうのみにするのは危険
今回の事例で強く感じるのは,一つのメディアの情報をうのみにするのは危険ということです。朝日新聞と日経新聞の記事ではだいぶ印象が違います。朝日新聞には見出しに「異例」とつけてみたり(手当の削減自体はよくある話で異例でも何でもない),非正社員の待遇改善に意図的と思えるくらい言及されていませんでした。一方,M&Aなどに関しては筆が滑ることがしばしばある日経新聞ですが,比較的この記事に関しては冷静な論調に思えました。
朝日新聞は無料で読める記事でしたが,日経新聞は有料会員(もしくは無料会員で限定10記事/月)でないと読めない記事だったためか,削除ばかりを書いた朝日新聞の記事が拡散していたようです。
そして,その記事やコメントを読んだ人が,待遇改悪ひどいというようなことをつぶやき,それを見た他の人も……という構図でした。
冷静に考えると,「賃金で一部の人が不当に高い報酬を受け取っている」(裁判でもそのような判決が出ている)ことを少しだけ是正するという話であって,日本郵政がとんでもない判断をしたというような話ではありません。
すでに「マスゴミ」などと揶揄されるように昔ほどの絶対的な信頼感はありませんが,依然といて大手メディアの記事への信頼は厚く,今回のように報道内容が偏っていた場合は危険ですね。できるだけ複数ソースから確認する癖をつけておきたいものです。
【関連コンテンツ】
朝日は労働者の立場に立って、これまで当然に受けてきた手当を削減されることをメインに書いています。
日経は経営者や投資家の立場に立って、これまで社員に払ってきた手当の配分先を変えることをメインに書いています。
日経のほうが客観的にも見えますが、日経と違って朝日の読者の多くは経営者や投資家ではなく労働者ですので、その立場を重視するのはある意味当然で朝日の書き方が偏っているとも言い切れません。
もっとも労働者といっても正社員の立場に立った記事であることが朝日の特徴なんだろうと思います。
(今回組合のサイトに声明は載っていないようですが)今は公式発表がネット上でされる時代ですので、複数のメディアの報道を確認するとともに、そこもチェックが必要なんだろうと感じます。
何らかの利害関係が発生する話を真に客観的に報道するというのは大変難しいもので、客観的であることを装ってただ公式発表垂れ流しになってしまうのも困ります。このあたりは報道の永遠の課題といえるものではないでしょうか?