長きにわたる景気回復局面にもかかわらず,景気回復の実感が感じられないという声もあります。
そんな中,一人当たりの所得が伸びていない(減少している)ことや世帯年収が伸びていない(減少している)ことをもって,庶民に恩恵が無いかのようなことを言う主張がありますが,ちょっと待った。
「平均年収」は全員の全員の所得が上がっても下がりうる数字
仮に6人の人がいて,4人が働いていて年収500万,2人は無職で年収0円とします。この場合,働いている人は4人で皆年収500万円なので,平均年収は500万円です。簡単ですね。
ここで景気が良くなって,働いていた4人の年収が100万円ずつ増えたとします。また,無職だった2人もパートの仕事が見つかって働きに出て年100万円稼ぐようになったとします。この場合,全員の収入が100万円ずつ増えたのですから,平均年収は500万円から600万円に増えるかというと,違います。
600万円が4人,100万円が2人となるので,(600万×4人 + 100万円×2人) ÷ 6人 = 433万円と平均年収は67万円下がります。
全員の収入が増えたにもかかわらず,平均年収は下がるのです。これは割る数が4人から6人になったように,平均年収は労働者の人数で割るので,従来働いていなかった人があまり高くない年収で労働市場に参加するようになると平均を引き下げるからです。
実際のデータを見てもこの現象が確認されます。
※GDP四半期 一次速報値 2017年7-9月期から作成
しかし,データを見る限り間違いです。確かに非正規雇用の割合が高くなっていますが,正規雇用も増えています。正規雇用が増える以上に非正規雇用の増える割合が多いので、被雇用者全体に占める非正規雇用の割合が増えているだけです。
いずれにしても正規雇用は増えています。つまり,「労働者数が増えていると言っても正規雇用が非正規雇用に置き換えられている」というような主張は無理がありそうです。(仮に正規雇用が非正規雇用に置き換えられているのであれば,それで減った分の正規雇用はどこか別のところで増えている)
低所得の労働者の参加によって平均が引き下げられていることを確認できます。
一世帯あたりの所得が下がっているのだから各家庭の生活は厳しくなっているという話です。しかし,これも疑わしい。
世帯あたりの所得の減少は,一世帯当たりの人員の減少及び引退した高齢者世帯の増加の影響が非常に強い。
以下のように世帯構成別に平均所得を見ると,「三世代世帯」が最も所得が高く,単身世帯の所得が一番低くなっています。
そして,世帯構造の変化を見ていくと,三世代世帯が減ってきています。
年金暮らしの高齢者と現役世代が一緒に暮らせば合計した所得は1世帯のものになりますが,別れて暮せば世帯数は2とカウントされるので世帯平均所得は半分になってしまいます。
このように,各人の所得が変わっていなくても世帯構造の変化(1世帯あたりの人員の減少,世帯数の増加)によって世帯あたりの所得が下がっています。
言ってしまえば,靴のサイズを決める時に身長を使うようなものです。身長という数字は非常に使えるケースも多いいい数字ですが,使える場所と使えない場所があります。確かに足の大きさと身長には正の相関がありますが,靴のサイズを決めるには不適切です。
これと同じように,平均年収や世帯所得というのも景気の善し悪しを判断するにはよろしくない。特にそれらの数字だけを使って語るにはふさわしくない数字です。
ここで景気が良くなって,働いていた4人の年収が100万円ずつ増えたとします。また,無職だった2人もパートの仕事が見つかって働きに出て年100万円稼ぐようになったとします。この場合,全員の収入が100万円ずつ増えたのですから,平均年収は500万円から600万円に増えるかというと,違います。
600万円が4人,100万円が2人となるので,(600万×4人 + 100万円×2人) ÷ 6人 = 433万円と平均年収は67万円下がります。
全員の収入が増えたにもかかわらず,平均年収は下がるのです。これは割る数が4人から6人になったように,平均年収は労働者の人数で割るので,従来働いていなかった人があまり高くない年収で労働市場に参加するようになると平均を引き下げるからです。
実際のデータを見てもこの現象が確認されます。
■賃金総額は増えている
日本国民全体の総賃金ともいえる数字は「雇用者報酬」になります。この数字は近年右肩上がりです。つまり,国民が給料としてもらうお金は増えているのです。■非正規雇用だけではなく,正規雇用の数も増えている
「非正規雇用の割合が年々高くなっている。正規雇用が減って非正規雇用が増えているんだ。雇用が増えても収入が増えていない。」のような声も聞こえてきます。しかし,データを見る限り間違いです。確かに非正規雇用の割合が高くなっていますが,正規雇用も増えています。正規雇用が増える以上に非正規雇用の増える割合が多いので、被雇用者全体に占める非正規雇用の割合が増えているだけです。
いずれにしても
※http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000120286.pdf
低所得の労働者の参加によって平均が引き下げられていることを確認できます。
「世帯所得」が下がっているのは三世代世帯の減少,単身世帯の増加など世帯構成の変化
もう一つ所得を語るにあたってよく使われるのが世帯所得です。一世帯あたりの所得が下がっているのだから各家庭の生活は厳しくなっているという話です。しかし,これも疑わしい。
世帯あたりの所得の減少は,一世帯当たりの人員の減少及び引退した高齢者世帯の増加の影響が非常に強い。
以下のように世帯構成別に平均所得を見ると,「三世代世帯」が最も所得が高く,単身世帯の所得が一番低くなっています。
※http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h25.pdfから抜粋
そして,世帯構造の変化を見ていくと,三世代世帯が減ってきています。
※http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/20-21-h25.pdfから抜粋
年金暮らしの高齢者と現役世代が一緒に暮らせば合計した所得は1世帯のものになりますが,別れて暮せば世帯数は2とカウントされるので世帯平均所得は半分になってしまいます。
このように,各人の所得が変わっていなくても世帯構造の変化(1世帯あたりの人員の減少,世帯数の増加)によって世帯あたりの所得が下がっています。
平均年収や世帯所得は,それだけで景気の善し悪しを計るのに適していない数字
上のように書くと平均年収や世帯所得という数字が使えないかのような印象を受けるかもしれませんが,そうではありません。平均年収や世帯所得という数字はそれはそれで意味があります。その数字を景気の善し悪しの判断に使ってしまっていることが問題です。言ってしまえば,靴のサイズを決める時に身長を使うようなものです。身長という数字は非常に使えるケースも多いいい数字ですが,使える場所と使えない場所があります。確かに足の大きさと身長には正の相関がありますが,靴のサイズを決めるには不適切です。
これと同じように,平均年収や世帯所得というのも景気の善し悪しを判断するにはよろしくない。特にそれらの数字だけを使って語るにはふさわしくない数字です。
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非常に論理的説得的な記事でした
これからも楽しみにしています