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金融商品の販売についてはいろいろな規制があります。

有名な法規制としてはまずは金融商品取引法があります。
そして,各種金融商品を販売するには届/登録が必要であったり,商品についてしっかり説明したかといったことが問われたり,業界団体で多くのルールが策定されていたり……とコンビニエンスストアで週刊少年ジャンプやおでんを売るのとはわけが違います。(月刊少年マガジンとも違います)



コンビニで週刊少年ジャンプやおでんを買った顧客が「そんな商品だとは知らなかった,騙された」といってコンビニを訴えて勝訴なんてことはまず考えられません。しかし,金融商品の場合,損した顧客が「そんな商品だとは知らなかった,騙された」と金融商品を販売した金融機関を訴えて金融機関が裁判で負けるといったケースもあります。

このような現象を見て,どんなボッタクリ商品を売ろうとどんなボッタクリ商品であろうと「売る側/買う側の合意に基づく売買契約なのだから規制をする必要はない」と「契約自由の原則」を主張する声もあります。
しかし,これは金融商品の場合に適応するのは非常に危険です。


「契約自由の原則」が上手く回るには前提条件がある

「契約自由の原則」が上手くいくには契約する双方が契約内容をしっかりと理解して納得しているという前提条件があります。
「100ページにも及ぶ契約書の中に一方が絶望的になるくらい圧倒的に有利になる条項を紛れ込ませていて,相手側がそれに気づかずに契約をしてしまう」というようなことはあってはいけません。
例えば,初めて就職してある会社に所属する際に契約書の文言を一言一句読んで理解してから雇用契約を結ぶ人はどれほどいるでしょうか?「20年間は会社側の同意無くして会社を辞めることはできない」というような条項をこそっと紛れ込ませていたら?そんなことがないように労働基準法などでやってはいけないことなどを定めています。

また,「この契約に同意しないと家族がひどい目にあうぞ」などのように脅されて契約するようなこともあってはいけません。これも双方の納得にはなりません。

双方の意思で契約していいというのはお互いが公平な立場でその契約に納得して契約を結べる場合という前提条件があります。

金融商品に関する情報量は非対称

金融商品ついて考えると,この前提条件が成り立っていません。各種金融リテラシーに関するアンケート結果などを見ても分かるように,世間一般で金融商品に対する知識が十分にある人は極めて少数です。
そんな金融商品の売買を「契約自由の原則」でやったら,そんなつもりはなかった…ということでおかしな契約をしてしまう人が多数出てくるでしょう。

こんなことを言うと,自分で勉強していて金融商品について詳しい人から「そんなの勉強しない怠け者が悪い」という批判が寄せられることもありますが,それは違います。
「あなたが金融リテラシーが高いのは,たまたま勉強したからであって,自分が知っているのだから他人も知っているべきだというのはおかしい」というのが私の反論です。

これ言い出したら「薬を飲んで副作用が出た?そんなの薬の作用についてちゃんと勉強していないあなたが情弱。」「医師の治療がおかしかったせいで後遺症が出た?その症状に対して,どんな治療方針が適切か勉強していなかったお前が悪いんじゃないの。医師がその治療を行うといった際に同意したよね?なんで反対しなかったの?」のように医学・薬学の知識を持たなくてはいけなくなります。
他にもいろいろなことについて自分で専門知識を持たないといけなくなってしまいます。
これはあまりにも非現実的です。

契約自由の原則には影響度合いも重要 -週刊少年ジャンプと住宅

「契約自由の原則」の大原則として公平な立場で納得していることを挙げましたが,契約に対する規制を強くしなくていいという判断で重要なのは影響力でしょう。

最初にコンビニの週刊少年ジャンプの例を挙げました。漫画雑誌の売買取引/契約に対する規制は非常に弱いものです。仮に漫画雑誌がロクでもないものだったとしても顧客が被る損害がたかが知れています。せいぜい数百円という損害です。そのようなもののために複雑な規制を設ける意義はほとんどありません。
週刊少年ジャンプに限らず,他の数百円で売っているようなものは同じように販売/売買契約において顧客保護に関する特別な規制はなくても大した問題は起こりません。

しかし,金額が大きなものになると状況が変わります。
人生で一番大きな買い物と言われるのは住宅です。その住宅の売買契約については非常に多くの買主保護の制度があります。
重要事項説明書に基づいて説明したか,新築住宅の瑕疵担保は10年など多くの特別な規制が設けられています。

40インチの液晶テレビなら重要事項説明書に基づいた説明は義務付けられていません。仮に「あー,これ後ろの配線の仕組みがいけてないや」となっても損害額もたかが知れているからです。
しかし,住宅の場合は何千万円からという非常に大きな買い物になるので,何か問題があった時に買主の人生を大きく狂わせてしまうほど損害が大きくなりえます。

当然,顧客側も大きな買い物をする際にはしっかり勉強をするべきですが,専門家でもないのでそう簡単に全部をカバーすることもできません。そこで契約に規制をかけることの意義があります。

金融商品は住宅を超えるかもしれない

先ほど,「人生で一番大きな買い物と言われるのは住宅」とも書きましたが,金融商品はそれを超える可能性を持っています。
投資信託は100円や500円といった少額から買えますが,投資信託に限らず株・債券など金融商品は1000万円や1億円や10億円といった金額で購入することもできます。

このように,金融商品取引は住宅を超える金額の取引になることもあります。そんな大きな契約ですから「安定的に数%の利益を得られるという話でノックイン債を買ったのに,なぜか大損していた…」のように顧客が思ってもいなかったような事態が起きて数千万円や数億円の損失が出るといったことが起こりえます。

そのようなことが無いように顧客/投資家保護のための各種規制が有効な手段として光り輝いてくるのです。


現代社会で多くの不幸な人を作らないためには,ある程度の金融商品に関する規制というのはあってしかるべきものかと思います。(規制以外の有効な問題解決手法が出てこない限り)




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