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先日，2019年の年金大改悪　給料の60％超が天引きされる異常事態もという記事を見つけました。

10月から、厚生年金保険料が18.3％まで引き上げられるが、厚労省は、人口や経済の動向などから年金制度が持続可能かどうかを検証する2014年の「財政検証」で、「所得代替率50％を維持するには25.9％の保険料率が必要である」と密かに“軌道修正”している。
「その際に、保険料アップの新たな“目標”として持ち出されるのが、2014年の財政検証で国がわざわざ示した『25.9％』という保険料率です」（北村氏）

年金制度に詳しい“年金博士”こと社会保険労務士の北村庄吾氏が登場して上記のようなことを述べています。
現在18.3%となった厚生年金保険料が25.9%になったとしたら大変です。しかも国が直近(2014年)の財政検証で所得代替率50%を維持するのに25.9%が必要だなどと言っていたら，消費税値上げよりもインパクトがある話かも知れません。

そんなビッグニュースが2014年の財政検証発表時にもその後も一切話に上がってこないのは不思議なことです。

2014年の財政検証で示された数字は保険料率18.3%で所得代替率50%を守れるということ

2014年の財政検証の資料を見てみましょう。

平成26年財政検証結果レポートにて財政検証の内容を確認できますが，北村氏の言う試算が見当たりません。
その代わりに以下のような試算結果が見つかります。
zaiseikensho_2014
(※第1章より)

この試算ではA〜Hまでの様々な経済状況で試算されていますが，まあ中くらいのケースEあたりが一番ありそうと思っているところでしょうか。その数字を見ると現在の18.3%の保険料で将来も所得代替率が50%を維持できるという試算になっています。

ケースGやケースHのように経済状況が非常に悪い場合には，保険料率18.3%では所得代替率50%を維持できないという数字にはなっていますが，普通(と厚労省が思っている)のケースでは所得代替率は今の保険料で維持できるという試算です。

いずれにしても25.9%という試算は出てきません。


北村氏はどこから25.9%という数字を持ってきたのだろうか

では，北村氏がもってきた25.9%という数字はどこから来たのでしょうか？
一つ考えられるのは北村氏が鉛筆をなめて適当な数字を考えてみたという可能性です。
しかし，もう一つ考えられることがあります。それは全く別の試算で求められた25.9%という数字を引っ張ってきた可能性です。

2004年(平成16年)に年金の財政再計算が行われています。この中に厚生年金保険料が25.9%という数字があります。この数字を使っている可能性が考えれます。しかし，この試算は全く別のものです。
2004年の財政再計算では以下のようになっています。
平成 16 年改正前の給付水準及び基礎年金国庫負担割合（3 分の 1）を維持すれば、厚生年金の保険料率は年収の 25.9％まで、国民年金の保険料は月額 29,500 円（平成 16 年度価格）まで引き上げることが必要と見込まれた。
zaiseisaikeisan_2004
だいぶ話が違います

2014年の「財政検証」で、「所得代替率50％を維持するには25.9％の保険料率が必要である」と密かに“軌道修正”している
再び引用しましたが，これが北村氏の主張です。北村氏の文章の間違い修正を行ってみます。

●間違い探し
    • 2014年の　⇒　2004年の
    • 「財政検証」で　⇒　「財政再計算」で
    • 所得代替率50％を維持するには　⇒　平成16年改正前の給付水準を維持するなら (※平成16年の所得代替率は59%)
    • 25.9%の保険料率が必要　⇒　国庫負担金が1/2になっているので22.8%の保険料率
    • 密かに”軌道修正”している　⇒　平成16年の制度改定からずっと18.3%で所得代替率50%を維持できると言い続けている
国庫負担金が1/3で，所得代替率が59%で……という条件で計算した25.9%という数字を，国庫負担金1/2，所得代替率50%の試算結果として使うのはさすがにおかしいと思いますが，これが”年金博士”と呼ばれる人のやり方なのでしょうか。


困ったことにこういうデマを信じてしまう人が結構いる

Twitterをこのニュースのタイトルの一部で検索したら，25.9%という試算のことをそのまま信じてしまっている人が結構いました。一般の人がソースである財政検証や財政再計算の資料にあたって読むということはまずないので仕方ないのですが，それをいいことにテキトーなデマをばらまいて不当な年金批判を広められるのは困ったものです。

この手のデマは何とかなりませんかね……



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