どうも立命館大学がpixivにアップされているR18の小説を研究題材に使って論文を発表した件が燃え上がっているようです。
事情をよく知らない方は以下をどうぞ。
●立命館大学の論文が炎上 pixivのR-18小説を「有害な情報」の分析対象に (exciteニュース)
私は内容自体は見ていないのですが,周囲の論調から主に以下のような点が問題になっているようです。
- 作者に断りなく作品を無断引用した
- 作品名と作者名を公開した
- 作品が有害なものだと言った
- とても論文と呼ぶにはふさわしくないようなレベルの低い内容
無断引用は当然問題なし,というか引用は無断が通常
「無断引用」,非常に香ばしい言葉です。そもそも著作権法第32条に定められていますが,条件を満たしていれば公表された著作物を引用できます。この条件に著作権者の同意は不要なのでわざわざ「無断」と付ける意味がなく,「無断で国道で運転する」といったようなもので、そりゃそうだと言う話です。仮に著作権者の同意が必要となってしまったら論文を書くのは大変です。各種論文では膨大な量の引用がありますが,その著作権者に全部確認を取っていたら大変です。
また,引用の許可を出す側も大変です。人気の論文などはものすごい回数引用されています。 Web of Science Top 100.xlsは2014年時点で公開された引用回数が多い論文Top100とのことですが,30万回を超える引用をされています。許可を求められる方も嫌になりますね。Topは30万回も引用の許可を求められて応えていては,1時間に1回許可するにしても34年間許可し続けることになります。
いずれにしても,引用の大前提は無許可OKなので,無断引用だから悪いというのはおかしな批判です。もちろん,正当な引用の範囲を超えていて剽窃や転載の域に達していた場合はアウトですが,どうもそうではなさそうな感じです。
公表された著作物では,著作物や著作者を示してOK
論文では,その著作物や著者が分かるように公開したことが問題ともなっていますが,そもそも引用の条件として著作権法では第48条で「出所の明示」が要求されており,引用するからには著作物や著作者の情報を明示せよとあります。前項の出所の明示に当たつては、これに伴い著作者名が明らかになる場合及び当該著作物が無名のものである場合を除き、当該著作物につき表示されている著作者名を示さなければならない。
このポイントでの別の論点は,pixivでの公開が一般に公開されたものとして考えてよいかですが,特にアクセス制限もかけられていないインターネット上のサービスで会員登録すれば誰でも見られるということを考えれば,Amazon Primeに登録すれば見られるR18のビデオのようなもので,公開物と考えてもいいのではないでしょうか。
そもそもR18の時点で有害なのでは?
論文では,pixivのR18の小説を「青少年にとって有害な情報」があると判定していて,このように有害と言うことが問題という声もあります。しかし,そもそもがpixivでR18にしているように青少年には有害な情報があるという前提で公開されている小説なのではないかと思うのです。元から有害情報が含まれるR18だと言っておいて、外部の人に「有害な情報がある」と言われることが問題というのは何か変です。
論文の質については,知りません (笑)
これは全く別の問題ですね。論文の質については低ければボロクソに言われればいいでしょう。それこそ、この論文も公開物ですから,正当な範囲内での引用はOKでしょうし,批評もOK。pixivのユーザは,論文として研究題材としてまな板の上に乗せられると考えてはいない内輪のコミュニティのような感覚だったのかもしれません。そこにいきなり爆弾を落とされたような感覚でしょうか。そういう意味では,立命館大学の論文はルール上は問題はないかと思いますが,名前を出す必然性が無ければ気を利かせても良かったのかもしれません。
ブログやSNSも然り,インターネットに公開するということの重大性の認識は大事
最後にまとめ,というか本題。以前からこのブログで何度か書いてきましたが (参考: ブログやTwitterの発言には覚悟が必要) ,著作であったり何らかの文章をインターネットの中に出すということは非常に重大なことという認識を持ってほしいのです。ほんの少し前までは世界中が用意にアクセス可能な場所に意見を出すことなどできませんでした。新聞やテレビに取り上げてもらうなど大変でした。今ではそれを自分でやっているだけという話です。
たとえ個人の零細ブログでの書き込みであっても,外に向けて公開したのであれば大手メディアで書いたのと同じです。それは当然引用される対象になりますし、批評の対象になります。その際にはその投稿タイトルと投稿者名 (ハンドルネーム) もセットで論じられます。
このような覚悟は持たないといけません。
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