以前もこの手の話は書いた気がしますが,定期的に書いていきたい話です。
「年金の支給額も長期的には減額されていきそうだ。自助努力をしなくてはいけないのだけど,最近は銀行の金利が低くて,銀行に預けていても全然お金が増えない。だからリスクを取って高いリターンを求めなくては。」
投資を誘う文句でこんな話があります。職場でも「預金していてもお金増えないよね。投資した方がいいのかな」といったような声を聴くことがあります。(このような声を聴いたのが今回書くきっかけ)
- 年金や国家の財政破綻,長寿による老後の長期化などで自己努力がより求められる
- 自助努力というけど,預金していてもお金は増えない
- お金を増やすならリスク資産への投資だ!
一見正しく聞こえそうでもありますが,これは要注意です。
名目リターンと実質リターンに注目
預金金利が高ければ儲かって,預金金利が低ければ儲からないのか? これはわかりません。確かに100万円に対する金利が年率6%なら1年後には106万円になり,100万円に対する金利が年率1%なら101万円で金利が高い方が名目の数字で比較すると大きくなります。
しかし,世の中のお金の価値は一定ではありません。
昭和51年の大学卒男性の初任給は94,300円でした。
平成28年の大学卒男性の初任給は205,900円です。
今の大学卒男性は40年前の大学卒男性に比べて2倍以上の給与をもらっています。しかし,40年前より2倍以上も豊かになったというわけではありません。
ここで重要なのが物価,もしくはインフレ率です。手に入るお金が2倍になっても,すべてのモノの値段が2倍になれば,実質的に買えるものは変わりません。
預金金利についても同じことが言えます。
金利が低い(高い)ということはどういう状況でしょうか?
1年後に物価が1.1倍になる世の中でお金を貸すとして,金利はいくらに設定すればいいでしょうか?年率5%はどうでしょう?
今ならジュース100本買えるお金(120円×100本=12000円)を持っていたとします。
これを貸して1年後に5%増えて手元に戻ってくると12000円×1.05=12600円です。600円増えました。これが名目リターンです。
では返ってきたお金でジュースは何本買えるでしょうか?
お金を貸している間にジュースの値段は1.1倍になって132円になっています。12600円では95本しか買えません。1年前にはジュース100本分の価値があったお金が95本ちょっと分になったので実質的なリターン(実質リターン)はマイナスです。
「返ってこないリスクを取ってお金を貸したのに返ってきたら実質的に買えるものが減っていた」では割に合いません。
インフレ率が高い世の中ではお金の貸し手は金利を相応に高くしないと割に合わないので,金利が高くなります。
インフレ率と金利は完璧に連動しているわけではありません。しかし,一般的な傾向として名目の金利が高いということはインフレ率も高いことが多いと言えます。
つまり,金利が高くなったといっても実質リターンが高いかどうかは要注意です。同時に預金金利が低いからといって不利だというのは早計だとも言えます。
不安を煽って投資の世界に引き込もう(そして手数料をいただこう)とする輩には要注意です。
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