9月15日に金融庁から『金融レポート』が発行されました。
※平成27事務年度 金融レポートについて
金融レポートと言うだけあって日本の金融に関することが色々書いているのですが、山崎元氏が【「個人投資家から見て」金融レポートのどこを読み、どう生かしたらいいのかをご紹介しよう。】として,ダイヤモンド・オンラインに金融庁がダメ出しする運用商品ワースト3という記事を書いています。
これを踏まえた上で、金融レポートの中身を見ていきたい。
なお,タイトルの「山崎元と金融庁の突っ込みどころ!」は,私も何度か講師をさせていただいた横浜サカエ塾のセミナーで,11月22日に開催されるセミナーのタイトルです。私が紹介するまでもなく定員に達したようですが,紹介を兼ねて拝借させていただきました。
※山崎元の突っ込みどころ! (こくちーず)
金融庁はワースト商品の話はしていません
まず,突っ込みどころと書かせていただいたので最初にここから。山崎氏の記事のタイトルではワースト3と最も悪い商品3つとして「毎月分配型投信」「個人年金保険(特に外貨建てのもの)などの貯蓄性保険商品」「ラップ運用(特にファンドラップ)」を金融庁が名指ししたかのようにも読み取れますが,そうではありません。平成 27 事務年度においては、日米の投資信託の比較・分析や、販売会社における販売姿勢、更には、ここ数年、販売額が顕著に伸びている貯蓄性保険商品やファンドラップについて検証を行った。上記は金融レポート59ページの記述です。これを読むと分かるように,銀行や証券会社が売っている数ある商品の中から、販売が増加している貯蓄性保険商品とファンドラップに注目したというだけということがわかります。
ですので,金融庁が仕組債や他の複雑な金融商品を取り上げていませんが,それらが毎月分配型投信,貯蓄性保険,ファンドラップより良いということにはなりません。
毎月分配型投信は別の文脈で出てきましたが,貯蓄型保険やファンドラップについては,取り上げる題材になってそれを評価したということになります。
「商品自体のダメさ」と「販売のダメさ」の区別は大事
毎月分配型投信,貯蓄性保険,ファンドラップの3つでダメな点を金融庁は取り上げていますが,商品自体への指摘と売り方への指摘があるので,これは分離した方が良いでしょう。毎月分配型投信自体は実はあまり否定されていない
金融庁の毎月分配型答申に対する指摘は,主に「当面現金を必要とせずに中長期での資産形成を考えている顧客も含め、一律に収益分配頻度の高い商品を提案する場合が多い」といったもので,あくまで資産形成層に対して分配型投信とニーズに合っていないものを勧めるのが悪いという話だけです。リスクを取りたくない人に株式投資を勧めるのが悪いように.この金融庁の指摘は商品自体は否定していません。
• 分配金利回りのランキングを公表する等、分配金利回りの高い投資信託が運用成績が良いとの誤解を与えかねない情報提供を行っている事例こんな記述もあるように,毎月分配型投信については,販売側の使い方についていろいろ指摘しています。
• 運用内容が同じ投資信託において、年1〜2回の決算分配型のものがあるにもかかわらず、経済合理性に欠ける毎月分配型による再投資を行わせている事例
ファンドラップへの指摘は少ない
ファンドラップについて,金融庁から指摘もありますが,そう大きなものでもありません。投資家が支払う手数料は、主なファンドラップ商品の平均で、年間 2.2%に達する。
投資家においては、ファンドラップと他の投資商品の比較等により、ファンドラップの手数料が、提供されるサービスや運用成果の対価として適正であるか確認することが重要となっている。金融庁が調査を始めたころは2.2%程度の手数料がザラだったかもしれませんが、今では1%かそれを切る水準のファンドラップが出てきています。そろそろ,金融庁の言う「ファンドラップの手数料が、提供されるサービスや運用成果の対価として適正である」と言えるようになるかもしれません。
金融庁の突っ込みどころ / 日米ファンドのリターン比較がアンフェアでは?
金融庁は日本とアメリカで販売されている投資信託の中で,規模の大きな5ファンドを比較した以下の表を作っています。いくつかの数字はありますが,一番インパクトが大きいのはリターンの違いではないでしょうか。日本が▲0.11とマイナスリターンに対して,アメリカが5.20%となっています。5.31%の差は衝撃です。
しかし,ここはいくつか問題がありそうです。
日本とアメリカのインフレ率の違いは?
ここでの比較は名目リターンのようですが,インフレ率が高ければ名目リターンは高く出がちですので,そこを考慮しないといけません。日本とアメリカのインフレ率の違いを世界経済のネタ帳で見ると,2006年〜2015年の10年間だと年平均で1.90%の差があります。これだけで,実質でみると1.90%はリターン差が縮まりそうです。
日本だけ手数料が不利な計算では?
下の注意書きに小さく 「日本の販売手数料は上限。米国投信でシェアクラスによって手数料が異なる場合は、各クラスの残高を基に加重平均。 」という記述があります。投資信託の目論見書上の上限とされている金額を手数料として計算しているようです。しかし,実際にはその手数料を取っているとは限りません。実際,5ファンドの1つと思われるラサール・グローバルREIT(毎月分配型) は上限では3.24%ですが,SBI証券で買えば手数料はノーロード(手数料なし)です。他にも上限3.24%でもSBI証券では2.16%などというファンドもあります。
他にもアセットクラスの違いや再投資の有無等
他にも,5ファンドすべてが株式のアメリカとREIT3つの日本などアセットクラスに大きな違いがあります。違うアセット同士を単純にリターンで比較して良いのか……。また,分配金が再投資されないという想定で計算しているようですが,金融レポート自体で「一般に、利益を分配せずに再投資する方が投資効率は高くなるとされている。」などとも書いているのに再投資しない想定で書くのは日本側に不利になりそうな想定にしているのではないかと邪推してしまいます。
アメリカと日本のリターンが逆転することはなさそうですが,単純にこの表の数字だけで判断してはいけなさそうです。
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