
批判の大きい日本の年金制度ですが、根本的な問題があるように思います。
それは、以下の2つが無いことです。
- 日本における公的年金とはどういう位置づけのものなのか? という説明がない
- 年金制度を維持していく仕組みが無い
「日本における公的年金とはどういう位置づけのものなのかという説明」がない
年金の仕組みについての説明はあっても、日本における公的年金がどういう位置づけのものとして存在しているのかという説明はあるようで実はちゃんとしたものは見かけません。そのせいなのか、NHKでも年金だけでは暮らせない 増加する生活保護“同時受給”みたいな特集であったり、「生活保護が国民年金の老齢年金より多いのは許せない」という意見が出てきます。
生活保護は「最低限の文化的生活」を実現するための制度です。年金がそれよりも多くなくてはいけないとするばならば、年金は「文化的生活を保障するもの以上」となります。
しかし、国民年金の水準から考えても、公的年金は老後の普通の生活水準を保障するものではないはずですが、そのような説明もないせいか上のような話が出てきます。
国民年金法、年金を管轄する厚生労働省及び日本年金機構のサイトで公的年金の位置づけのようなものを探してみたところ、さすがはお役所!!という"見事なモノ"しかありませんでした。
それを個別に見ていきます。
厚生労働省の説明

厚生労働省のサイトでは主に2か所で説明っぽいことがありました。
【1】 教えて!公的年金制度 なぜ公的年金は必要なの?
個人や家族だけで対応しようとしても、必要な額の貯蓄ができなかったり、貯蓄のために必要以上に生活を切り詰めたり、家族や子どもに頼ることができなくなったりすることも起こるでしょう。これらに対しては、社会全体で対応した方が確実で効率的です。世代を超えて支え合うことで、その時々の経済や社会の状況に応じた給付を実現することができます。よく分かりません。むしろ、「個人や家族など自助努力で支えるのは効率的じゃないので、年金で効率的に支える」というように、年金が老後の生活を保障してくれると思われかねない説明です。
【2】 公的年金の意義〜どうして日本には「年金」があるの?
公的年金は、予測することができない人生のリスクに備え、すべての人が安心して暮らせるように国が制度化しているまとめとして上記のように書いています。これも公的年金という制度で安心して暮らせるように保障してくれると思われかねない説明です。
日本年金機構の説明

公的年金制度の役割が一番それらしいページですが、これも「何故その制度があるのか」「どういう目的で設けられているのか」という説明にはなっていません。
役割について書いてあるのかな…と思ってページを開くといきなり延々と【1 少子高齢化の進行】という話を延々と語られます。その後にやっと【2 公的年金が果たす役割】という話が出てきます。まさに日本のお役所的説明という構成です。
この中の説明も明確ではないのですが、役割という言葉も使って説明されているのが以下の文章です。
公的年金は、高齢者世帯の所得の約7割を占めるとともに、高齢者世帯の公的年金等の総所得に占める割合が100%の世帯が6割強と高く、また、国民の4人に1人が年金を受給するなど、今や老後生活の柱として定着し、国民生活に不可欠な役割を果たしています。典型的な悪い説明文の例です。
これは年金が実社会でどうなっているという現状を解説したものであり、制度を設ける側が設定すべきその制度の目的や役割ではありません。
厚生労働省も日本年金機構も「年金は(老後の)生活を保障する制度」と、かなり高い望みを持たれてしまっても仕方ないような説明です。他にもいろいろな不足がありますが、まず最初の「年金の位置づけ(特に老齢年金の位置づけ)」すらまともに説明されていません。
おまけ: 国民年金法による説明
第一条 国民年金制度は、日本国憲法第二十五条第二項 に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によつて国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によつて防止し、もつて健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする。
第二条 国民年金は、前条の目的を達成するため、国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な給付を行うものとする。
※参考:e-Gov
第一条はいいと思います。寄与なので年金で全部カバーするのではなく、幾ばくか貢献するというニュアンスを含みます。
しかし、第二条がちょっと良くない。【国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な給付を行う】だと、あたかも老後に必要なお金を給付してくれるかのように読めてしまいます。
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目的が不明瞭なのは記事でふれられた通りですが、制度の設計思想(積立方式・賦課方式・それ以外など)についてもやはり曖昧です。
もし年金の負担者と受益者が一致すべきであるという思想で設計された制度であるならば、個人年金のように積立方式で運用すべきであるし、個々人にとっての収支相当が実現するのが望ましく、世代間格差は是正されるべき問題です。
一方で年金は働く子供からの老親への仕送りを社会保険化したものであるという思想で設計された制度であるならば、賦課方式が最も適切であり、某大臣が言うとおり世代間格差の本質は、将来の負担者を十分に産み育てなかった少子化世代自身の責任ということになります。
現行の制度、積立方式にしては積立水準が低いし、賦課方式にしては積立水準が大きすぎるし、混合型というなら制度の主旨が非常に曖昧だと思います。