就職・仕事選びはいろいろな意見が出るテーマです。
特にこれから社会に出ようとして就職活動を行う学生(特に大学生)に向けられるアドバイスは一番多いでしょう。

その中で「これは無責任かつ有害なアドバイスだな」と思うのが「好きなことを仕事にしよう」というやつです。

具体的に言うと「給料や福利厚生や安定や会社の社会的な知名度で仕事を選んではいけない。自分が本当に好きなことを仕事にしないと」みたいなことをいうアドバイスです。
これが、特定個人に向けられた個別化されたアドバイスならいいのですが、一般的に言うのなら酷い言葉です。


多くの就活生にとって、自分の好きなものを仕事にしようとしたら悲劇です。

●基本的に稼げない

まず好きなことの大部分は基本的に稼げません。学生にとっての好きな行動の多くは消費者としての行動です。
「ディズニーランド大好き。毎週行っちゃう。あそこで友達と遊ぶのが超楽しい」「マンガ読むのは大好き」「友達とフットサルをプレーするのが楽しい」

正直ベースで「好きなこと」を考えると上のようなものが出てくるでしょう。しかし、これは仕事になりません。
ディズニーランドで遊ぶ仕事、マンガを読む仕事、フットサルをプレーする仕事なんてのはほとんどありません。(一部には突き詰めればそれでかせでいる人はいるのでしょうが、一般的には無理)

「漫画が好きなら漫画家や編集者になればいい」みたいなふざけたことを言う人もいますが、読み手と書き手と編集者は全く違います。


●好きなことを仕事にすると、おもしろくない

仮に自分の好きなことが仕事になり得るものだったとします。
例えば、プログラミングが好きであればプログラマーとして仕事ができる可能性は十分にあります。
しかし、ここでも落とし穴があります。
同じようなことでも自分で好き勝手にやるのと仕事でやるのは意味が違います。

納期であったり、顧客からの要望による仕様で作らないといけないなど、仕事となるとお金をもらう対価として作業の義務が発生します。
趣味で作っているときには、自分の好きなペースで、自分の好きなように改変したりできます。しかし、仕事としてプログラミングを行う場合、仕様に従わずに勝手に改変していくことはできません。
作業自体は1分で終わる「タブの色を水色にする」にしたいというだけでも、顧客が「黄緑だ」と言い張っていれば、それを説得しなくてはいけません。
これは非常に面白くない話です。


●「でも、好きなことをして成功している人がいる。いや、成功者の多くが好きなことをやっている」という勘違い

上のように書くと、「でも、好きなことをして成功している人がいる。いや、成功者の多くが好きなことをやっている。好きなことをやらずに成功している人なんてほとんどいない。」という反論も出るでしょう。

確かに、テレビに出ている芸人やプロスポーツ選手などはそれが好きでやっている人が多数でしょう。ビジネスの世界で大成功を収めている人も多くは好きなことをやって成功させています。
「成功者の多くが好きなことをやっている。好きなことをやらずに成功している人なんてほとんどいない」は正しい。

しかし、これは「他の人も好きなことを仕事にするべきだ」とはなりません。
成功者の話は生き残りバイアスです。確かに好きなことを突き詰めて、その世界で勝ち残る能力を持っていた人であれば大成功します。しかし、彼らとの競争で敗れた敗者がその成功者の何百倍、何千倍もいます。
芸人として成功した人の影には、稼げる芸人になれずに結局コンビニバイトなどで生計を立てているような人が成功者よりはるかに多い数います。しかも何年もまともな稼ぎがないままに失意のうちに芸人をやめていく人の方が成功者より圧倒的多数です。
好きなことを仕事にしようと目指したところで、本当に好きなことを仕事にできて成功できるものはごく一部で、残りは好きなことを仕事にしようとして、好きでもない仕事で命をつないでいるという笑えないのが現実です。


●結論: 仕事の中で、好きな仕事/できる仕事を選ぼう

一般向けのアドバイスとして私が言いたいのは、「世の中にある数多の仕事の中から自分がこれならイイと思えるものを選びましょう」です。
好きというポジティブな感情を持てればいいのですが、中には何百・何千と言う仕事を見渡しても好きなものはないという人もいるでしょう。その人は「マシ」「これならそこまで嫌いじゃない」でOKです。

また、自分にそれをできるかも重要です。能力が足りなければ仕事に就くこともできません。仮に仕事に就けたとしてもすぐに失うだけです。
能力が不足している場合、できるだけの能力を身につけるか別の仕事を探すかした方が良いでしょう。



【関連コンテンツ】