(旬という意味では周回遅れのネタです)
ネットではそれなりに有名なちきりん氏の釣り記事です。

大企業のほうが成長できるとか完全にウソ
20年前の話ならわかるけど、今、「大企業のほうが成長できる」なんて、完全にウソだよね。
「いきなり起業」や「海外就職」はもちろん、日本で勤め人になる場合でも、ベンチャーとか外資系企業とかNPOあたりで働いたほうが、最初の3年間の成長は明らかに早いはず。てか、倍とか以上のレベルで差が付くのでは?
でも、「他の場所での成長」に比べたら、その成長スピードはびっくりするほど遅い。

タイトルからも分かりますが、「大企業なんて成長スピードが遅くて遅くて仕方ないよ」というお話です。
しかし、内容、特に比較がひどい。


auが以下のようにモノのスピードとLTEの周波数を比較して800MHzが「驚きの速さ。驚きのツナガリへ」というトンでもCMを流しています。

 ・12km/h: ランニングする人
 ・23km/h: 走る犬
 ・40km/h: 泳ぐサメ
 ・45km/h: 走るサイ (意外と早い…)
 ・91km/h: 空を飛ぶ鳥
 ・112km/h: 走るチーター
 ・128km/h: モーターボート
 ・505km/h: 高速鉄道
 ・771km/h: 飛行機
 ・800MHz: au 4G LTE
これは時速と周波数を比較対象に持ってくるというアカン例です。


ちきりん氏の比較はauのCM程はひどくありませんが、比較が不適切でダメなものはダメです。
大企業との比較対象に「ベンチャーとか外資系企業とかNPO」などを持ってきています。これがイケてない。

これらの組織をマッピングしてみると以下の通り。

chikirin_kigyo
大企業・中小企業は以下参照
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h23/h23/html/k211100.html


◆「大企業 vs 外資系」という間抜けな比較
まず、「大企業vs外資系」という構図が変です。
日本で有名な外資系企業を考えてみると、ゴールドマンサックス、アップル、マイクロソフト、オラクル、IBM、HP、P&G、J&J、アクセンチュア、ファイザー等々、有名な大企業が多数あります。HPが江東区に本社を移転してきてその周辺の変わりようたるや…
上のマッピングにもあるように外資系企業と大企業は切り口が違うものであり、比較対象としては不適切です。

いうなれば、「カナダ人」と「男性」のどちらが優れているかみたいなおかしな話です。


◆最大勢力である中小企業を無視
すでに大企業と外資系等の比較がおかしいという話はしました。そのようなおかしな比較に目をつぶった上で大企業の成長がこれらより低いとしましょう。

それでも大企業が他の場所より成長が遅い場所と言えるかは非常に疑わしい。

上の図でも示しているように、日本の企業の多くは国内資本の中小企業に分類されます。従業員数でも依然として圧倒的です。

つまり、

  「外資系、ベンチャー、NPO」 > 「大企業」

という式が成立したとしても、実は

  「外資系、ベンチャー、NPO」 > 「大企業」 > 「外資、ベンチャー除く中小企業」

という式が成り立ってしまう場合には、全体から見た時には大企業はかなりいけている上位の存在になります。(J1の中では下位だけど、それ以下を含めた全体からみればエリートのような話)

ちきりん氏のブログを読んで目から鱗という熱心な読者の多くも極々普通の一般人でしょうから「大企業vs中小企業」の構図でどちらの成長が大きいかを比べてみるべきじゃないでしょうかね。

例えば、トヨタとトヨタの下請け(直下ではまだ大企業なので、孫請け以下?)などとを比較してどちらが成長できるか?
私の知る製薬業界だと、国内資本の大企業には武田薬品工業やアステラスや第一三共などがあり、規模の小さなところでは製薬会社から業務委託を受けるCROなどがあります(CROでも大きい会社は結構大きいですが)。
大手製薬会社と小さなCROを比べてどちらが成長できるか?


こういう比較で考えてみないと、「一般的に考えた時に大企業の成長が遅い」のか「超ハイレベルなトップリーグの中では大企業は負ける」という話なのか分かりません。

日本のマジョリティである中小企業を無視してはイカンですし、そもそも「大企業」なら比較対象は「中小企業」でしょう。少なくとも「大企業vs外資系」は話になりません。

でも、ネタとしては大企業vs外資/ベンチャーの方が盛り上がりますからそれを取ったんでしょうね。
以上、釣られた男でした。


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