実力主義

企業が経営方針としてこれを掲げるのは一つ合理的です。
会社に貢献すればそれなりの待遇や報酬をもらえるという点では明快であり、ただぶら下がるだけの人間に高い報酬をむしり取られなくて済みます。


一方、「若者は安定したいい企業なんて言わずに実力主義の会社に行くべきだ。そこで何年間か耐えて学んだことは安定した企業とは違う」のように若者全般に実力主義(を称するブラック)企業を勧める人もいます。

しかし、このありがたいアドバイスは鵜呑みにしてはいけません。


●理由1: 徹底した実力主義の世界ではあなたは敗者になる
実力主義の世界では、ごく一部の勝者と多くの敗者に別れます。

スポーツの世界が分かりやすい。
フットボーラーの世界では、フットボールで食べていけるのはo.数%以下の限られた人です。99%以上はフットボールで食べていくことはできません。

企業の仕事はそこまで極端ではありませんが、それでも実力主義であるほど、限られた勝者と多くの敗者になります。

あなたはごく一部の勝者に入れる人ですか?それとも敗者になる凡庸な人ですか?

この手の「実力主義に飛び込め論」を主張する方々や勝者です。有名な大手広告代理店、商社、コンサルなどの出身であったりと戦いに勝ってきた人です。
彼らのように実力勝負で勝てる算段があればこそ実力主義の世界で勝負で良いのです。

しかし、一般論に広げた場合は、大多数は彼らのようにはなれず敗者となります。



●理由2: 徹底した実力主義では敗者は学べない
「ブラックでも必死に死ぬ気でやれば、そこで学んだことはすごい財産になる」という主張も眉つばです。

先にも取り上げたフットボールの世界であれば、使えない奴は出番すらもらえません。
企業の仕事においても、実力主義であれば使えない奴はチャンスをもらえません。
上司が新規案件を獲得してきた時、すぐに結果を出す優秀な人と無能なあなたのどちらに仕事を頼むか?
上司は優秀な人に仕事を頼むでしょう。無能なあなたに仕事を割り当てて、その案件を台無しにされれば自分の業績が下がって評価にかかわります。。

「俺の目の周りでちょろちょろするな。いいから雑用だけしとけ。で早く辞めてくれない?」が本音でしょう。



●理由3: 数字を作るために多くのものを失う
実力主義が称賛される時、それは営業の売上のように数字で明確に評価されることが良いとされることも多い。
努力で売り上げを上げれば評価される…と。

これは、真っ当にやって成績を出せるだけの実力がある人にはいい話です。真っ当な方法でいろいろ挑戦にしていけばスキルも伸びます。

しかし、多くの凡庸な人にはそうはいかない。
「実力/実績主義万歳、ブラックでも構わんぜ」主義だと、いわゆる「基本給は薄給、歩合制、経費は自分持ち」という営業などが典型でしょうか。保険の販売、もしくは布団や住宅や健康食品や墓石などの販売などですかね。

売上ノルマがあって、毎日壁に張り出されて上位は褒賞され下位なら叱責され灰皿を投げつけられる。当然、会社は簡単なノルマは与えません。高い営業スキルを持った上位の人のみがクリアできるような厳しいノルマを課して働かせます。ノルマを果たせなければひたすら叱責に次ぐ叱責。
「ノルマを達成しろ。お前何やってんだ!2人だから布団2枚とか言ってんじゃねぇ。爺さん婆さん2人だろうと10枚(布団)買わせて来い。田村なんて20枚も買わせたぞ」とかいい感じのブラック具合です。

こうなれば、平均的で真っ当にやってはノルマをとても達成できないような凡人ができることは身内や知人に愛情や友情と引き換えに買ってもらうか、自爆するか、無知な客にだまして売りつけるか。

才能のない凡庸な人間が実力主義の世界で生き残ろうとした場合の最後は惨めなものでしょう。
親族や知人を失って買ってもらう人もいなくなったり、無知な客を騙すことに耐えられなくなる人もいるでしょう。それでも実力不足なのですからドロップアウトしていき、会社は次のあなたを入社させる。


実力主義がいいのは、頑張れば勝者に回れるだけの能力がある人です。スポーツ選手や演奏家などで食べていこうと思っても才能が無ければ食べていけません。

実力がない普通の人は、一般論としては非・完全実力主義な会社の方が良いでしょう。実力で分捕られないのですからそれなりの報酬を貰えます。そして、極端な成果主義ではないので、無能なあなたにも仕事が割り振られます。そこで学べることもあるでしょう。
それでもどうしても実力主義の世界がいいのであれば、せめて強者が参加してこない世界をお勧めしたい。

一時期、勝間和代の生き方に憧れたカツマーなるものもありましたが、勝間和代氏は公認会計士の2次試験最年少合格でアンダーセンやマッキンゼーで働いていた人です。凡人がそれを真似するのは無理です。
有名な大手広告代理店、商社、コンサルなどの出身で、さらに独立して生き残れたような人と自分を簡単に同一視しない方がよい。


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