以下のような記事がありました。
採用担当者のみなさん。「落とした理由」を伝えてみては?
人事担当者への負担が増えることは承知ですが、ひとりの社会人として「なぜあなたが落とされたのか」を説明を提供するのは、まさに「社会的な責任を果たす企業」としての価値ある行動だと思います。

また記事中でイケダハヤト氏は、工藤啓氏のツイートも紹介しており、以下のような記述もあります。
就活生:「失敗で自殺」4年で増加 NPOが悩み分析へ mainichi.jp/select/news/20… 大学生の話を聞いていて、就活で不採用だった理由を伝えるべきだと思う。何が駄目だったのかフィードバックがないので改善もできないし、不安だけになる。

企業は学生のためにも非採用の理由を開示せよと言っていますが、はっきり言って反対です。これは多くの人を不幸にするでしょう。


(1)企業の負担が増える
企業側の負担が増えることは間違いなしです。企業によってはエントリーシートなら数千人から1万人を超える人数が応募もしてくるわけで、彼らにいちいち落とした理由を説明しているのは膨大な手間になります。しかもエントリーシートレベルで落とすのであれば、大して伝えらえることもない。


(2)学生の改善の役に立たない
何十社にもエントリーシートを送ってほとんどが不合格で終わった場合には、何十社からものフィードバックを受け取ります。でも、「大して伝えられることもない」とも書きましたが、ほぼ役にも立ちません。
企業によって評価の尺度は違います。最終的な評価基準は同じような企業同士でもエントリーシートで見るポイントは違ったりもします。そうすると、出てくるフィードバックも千差万別になりかねません。
大学受験までのお勉強ならテストのフィードバックをもらえれば、近代西洋史が苦手とか微積が苦手のようにはっきりとポイントが分かります。
ところが学生は、企業の採用/不採用の基準はそれぞれが共通の指標でもないわけで、当然に各社の評価基準やその社会的もポジショニングもよく分かっていません。それぞれの基準で「コミュニケーション能力が不足」「論理的思考力が不足」「行動力がいまいち」のように言われても、どう改善するのが正しいのかわからないのではないでしょうか?


(3)落とされた理由を聞かされたら心が折れる学生が増える
工藤氏は、未内定取得者は何度も不採用をもらうよりも落とされた理由がわからないことがもっとシンドイと感じている、のように言われていますが、これは違うでしょう。「隣の芝は…」現象です。
実際にフィードバックをもらうと、もっとシンドくなります。
学生に"役に立ちそうな"フィードバックを返すと以下のようになるでしょうか。
「あなたは不採用です。何故なら面接で論理的な受け答えができなかったから」
「不採用です。PR欄に書かれたことから論理的思考力も情熱も知性も不十分と感じられた。他に注目すべき点もなかった」
「あなたは不採用です。私たちの期待するだけのスキルを身に着けられる能力があるように思えなかったから」
「不採用です。コミュニケーション能力不足。」
「不採用。厳しい営業ノルマに耐えるだけの精神力がなさそう。」
「不採用。特別に光るものがない」
「君は不採用。全体的に能力不足だし、他学生と比較しても特筆すべきものもない。本当に当社に入って仕事をやる気があるのかという情熱も伝わってこなかった」「語学力不足」

こんな風に何十社もの人から言われるわけです。まるで自分が人間ではなく社会のゴミと言われているように思ってしまわないでしょうか。私なら理由を言われないよりはるかに凹みます。
かと言って優しい言葉で「貴殿と弊社の社風が一致しませんでした」のように言えば、それは落書きに過ぎない。

「不採用理由フィードバックは希望者のみが聞けるようにすればいい。聞いたら凹むような人はフィードバックをもらわなければいいんだ」のような解決策も出てきそうですが、そうはならないでしょう。

フィードバックをもらえるようになれば、「不採用になった場合、必ず不採用理由を聞くようにしましょう。それは次の改善につながるからです。」のような就活指南が出回ることは火を見るより明らかです。理由を聞かないような奴はダメ就活生です。今でも学生たちは就活マニュアルから外れることを恐れているのに、フィードバックを聞かないなんて大問題になるでしょう。
学生は聞かざるを得なくなるわけです。そして、"役立つ"かもしれないフィードバックほど心に突き刺さるわけで、心を病む学生も増えるでしょうし、それを苦に自殺する人も増えるんじゃないでしょうか。


【関連コンテンツ】