先のヘッジファンドのパフォーマンスで、ヘッジファンドの生き残り/バックフィル・バイアスに関する実証研究として挙げた、インデックス投資の大御所MalkielとSahaの『Hedge Funds: Risk and Return』の紹介です。

●レポート全文:Hedge Funds: Risk and Return
 MalkielとSahaはTASSのデータベースに登録されたヘッジファンドの数字を使って検証しています。

株式のパフォーマンスを測定するには株式のトラックレコードがあります。
ヘッジファンドにもトラックレコードがあり、いくつかのデータベースも存在します。

しかし、ヘッジファンドのトラックレコードには大きなバイアスの存在が指摘されています。代表的と言われるのが生き残りバイアスバックフィル・バイアスです。


【生き残りバイアス】
資産運用の世界ではパフォーマンスが悪ければ市場から撤退を迫られます。その結果、パフォーマンスが良いものが生き残り、データに残ります。その結果、全体の実態以上に好成績になることがあります。
特に成功報酬を収益源とするヘッジファンドの場合は拍車がかかります。一度パフォーマンスが悪化すると、成功報酬を得られる水準まで回復するのが困難になります。そこで、ファンドを解散して新しいファンドで資金を集めればゼロからのスタートです。

MalkielとSahaは1996年-2003年のヘッジファンドで「生き残っているファンドのみ」 vs 「生き残り+退場」のパフォーマンス差を計算しました。
Malkiel01
※Note: Backfilled returns were not included in this analysis; live versus defunct status was determined
as of April 2004.

結果は、上のように平均で4%ポイント以上の差がありました。


【バックフィル・バイアス】
事後に、運用してみて調子の良かったファンドの成績だけ報告し、調子の悪いファンドの成績は報告しないというバイアスです。(ヘッジファンドのパフォーマンス報告は任意かつ内容の正当性は問われないので、ヘッジファンドが好きに選べます)

MalkielとSahaはバックフィル・バイアスに関しては1994年-2003年のデータを分析しています。
「バックフィルのあったモノ」「バックフィルのなかったモノ」を比較しています。
Malkiel02

Malkiel03

上は平均(mean)、下は中央値(median)です。
「バックフィルのあったモノ」「バックフィルのなかったモノ」では平均では7%以上、中央値では6%弱の差があります。



トラックレコードを使ってヘッジファンドのパフォーマンスを測定する場合、そのデータには十分な注意が必要です。

ちなみにタイトルはRisk and Returnであり、後半ではヘッジファンドと投資信託のリスクも測定しています。


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