HFT(High Frequency Trading)

日本語では高頻度取引などと呼ばれます。

コンピューターによるプログラム取引で非常に短い時間で注文を出して利益を上げていくことを狙う手法です。ポジション保有期間は短い場合は数ミリ秒ということもあるようです。

そんなHFT、市場が乱高下(特に暴落)した時にはその原因として糾弾されることが良くあります。

再送-株価乱高下の背景、超高速取引が一因=麻生財務相(2013年5月28日)

上の麻生氏の発言でもありますが、「コンピュータで大量に注文を出すから(大量の売り浴びせ/買い浴びせになって)一気に暴落/暴騰する」いう主張が主流です。

しかし、ここで明確な根拠が述べられてはいません。


先に書いたように、HFTは非常に短い時間で注文を出して細かく稼いでいく取引手法です。数ミリ秒~という単位でポジション保有~クローズしています。これでは彼らが日経平均を大きく動かすようなことはできません。
仮に大量の売りを浴びせているなら、売って買い戻して、売って買い戻して、売って買い戻して、売って買い戻して…とやっていることになります。下げ相場の中で細かく売り買いをするのは愚かですし、また上の取引を見てもわかるように売りの数も増やしていますが、同時に買いの数も増やしています。

HFT悪玉論を唱える人は、一般的にイメージされているヘッジファンドとHFTが混同されているようです。

ジョージ・ソロス氏がイングランド中央銀行と戦った件など「ヘッジファンドは自分が儲けられる方向に市場を動かそうとする」ストーリーとして語られがちです。
そんなヘッジファンドもあるでしょう。市場を動かそうとするならひたすら売りを浴びせたりして一方の注文/ポジションを大量に作ることで相場を動かそうとします。
しかし、HFTはまったく違います。鞘を抜いてすぐに手じまってしまうHFTは全く異質な存在です。

最近では有名な2010年5月6日のアメリカ市場のフラッシュ・クラッシュについてSECが調査したレポートがあります。
FINDINGS REGARDING THE MARKET EVENTS OF MAY 6, 2010

このフラッシュ・クラッシュも当初はHFTが悪さをしたのではないかと疑われました。
しかし、結論を言えば、HFTは重要なキープレーヤーでしたが、暴落⇒暴騰の犯人ではありませんでした。

SECのレポートに詳細は書いてありますが、これを日本語でうまくまとめているのが、野村総研の金融ITフォーカス2011年5月号に掲載されているフラッシュ・クラッシュから一年
この中に流れをうまくまとめた表があります。

FlashCrash

ここにあるようにE-Mini(S&P500先物)で41億ドルという莫大な金額を売り浴びせた運用会社が犯人でした。
HFTは売りを浴びせるどころかむしろ買い向かう側でした。ところがあまりにも売りの圧力が強烈なので買い支え切れずに撤退→流動性も枯渇というのが流れです。

つまり、HFTが暴落を引き起こすどころか以下のような位置づけだったようです。
 (1)HFTは暴落を食い止めようとした
 (2)HFTがいなくなったことによって流動性枯渇で値が飛ぶ