日産がマーチの生産をタイにシフトしだしました。そして、トヨタが国産車の代表ともいえたカローラの生産を海外に持っていくというニュースも流れています。
このように日本企業の海外への進出が進んでいます。円高や他自動車メーカーが新興国で低コストで生産していることなどに対抗して競争力を保つための手段ということです。
この現象について産業の空洞化や雇用の喪失などといった憂う声が聞こえますが、仕方ないことでしょう。「日本は技術力はあるのに国内から雇用が失われていくのは残念」という声もありますが、だからこそ雇用が失われるのです。

一般的に熟練工の方が労働報酬は高くなります。日本人労働者=技術力があるとすれば、「日本人労働者=技術力ある(熟練工)=労働報酬が高い」という図式になります。さて、日本人労働者が高い報酬を貰うほどの仕事をやっているのでしょうか?
昔の新興国には一定の水準を満たした部品を製造するだけのスキルがありませんでした。車を組み立てるだけのスキルがありませんでした。ですからそれだけの技術がある日本で組み立てることに意義がありました。しかし、コストが安い新興国で組立てたり、部品を製造できるようになると、そこがMADE IN JAPANである必然性がなくなります。

Skill_Cost

この図は簡単なイメージ図です。縦軸がスキル、横軸が労働コストです。基本的にはスキルが上るほど賃金も高くなるという前提になっています。
3本の赤線のうち一番下の線が完成した部品を組み立てるのに必要なスキル水準だとします。左下の3つはこのスキルを満たしていません。しかし、それ以降は点はどれも必要なスキル水準をクリアしています。そうすると、左下の3つ以外のどこに仕事を依頼してもしっかりと車が組み立てられます。
部品の製造も同じです。真ん中の赤線が部品製造に必要なスキルとしましたが、これをクリアしていれば、どこで部品を作ってもよいのです。

このように考えていくと、日本で全てを完結することが極めて非効率であることが分かります。
技術力がある日本で部品の組み立てをやるのはオーバースペックです。部品の製造をやるのもオーバースペックです。マクドナルドのハンバーガー焼きに三ツ星レストランのシェフを使うのはオーバースペックです。

要求されるスキルセットを持っていて一番安いところに頼むのが一番合理的です。もし、その合理性を無視して高スキルの人に作業を依頼すると製造コストが高くなります。それでできた車は高品質なのでしょうか?低コストでも必要なスキルは持っている人たちが作った車と品質に遜色はありません。
同じ品質の車を高い値段で売ることになりますので、商品が売れなくなります。このようにして、利益が上らずに製造工を含めた日本人達の雇用を守ることが困難になります。日本人の雇用を守るために日本人で作業を完結した末に、日本人の雇用を守れずに会社も潰れるという結果に達します。

いくら心情的に日本人の雇用を守りたいと思っても、社会の仕組みがそれを認めません。

どうしても日本人に作業を依頼したいというのであれば、新興国並みの値段で作業を引き受けるしかありません。または、上の図で右上の人しか作業できない分野へ皆がスキルアップしていくかどちらかです。