興味深い記事を見つけました。

「宝くじなんて損」は本当orウソ…カジノより儲けられる! (Business Journal)

論理学の少しマジメな話として、「宝くじは損だ」という主張を否定しています。
とはいえ、その論理的なはずの反論の中に論理的な問題点が散見されます。

ここでのギャンブルの目的は儲けることだとしよう
 わかりやすくルーレットの例で説明しよう。1万円を元手にルーレットで儲けるためには、次のふたつの戦術のうち、どちらが正しいだろうか?

(1)100円ずつ一晩中、赤の目に賭ける
(2)1000円ずつ10回、1の目に賭ける

上のような2つの方法で比較して、(2)で36000円を手にした瞬間にゲームをやめると1/4は儲かるから(2)が正解で、だからこそギャンブルで儲けることを目的にするならば、確率よりもボラティリティ(変動の激しさ)が高いことのほうが重要だ、と言っています。

ここに大きな論理的な問題があります。この問題点は不適切な比較対象を設定していることです。

新薬開発の治験でも、新薬候補と対照薬を比較することがあります。
当然、この時に何を対照薬とするかは重要です。すでに効果が薄くて市場で流通していないような薬を対照薬に選んで、それより新薬候補が優れていると立証しても意味がありません。(現在の標準治療薬となっている薬の方がはるかに安全性も効果も高いかもしれない)

上のように考えた時、(2)の有効性を検証する時の比較対象として(1)は適切なのだろうか?

以下のようにマーチンゲールの法則(倍々プッシュ)を追加してみます。
(3)まず100円を赤の目に賭け、当たったらギャンブル終了。外れたら倍の200円を赤の目に賭けて、当たったらギャンブル終了。外れたら倍の…を繰り返す。

1万円の持ち金だと、3200円をベットする6回目の施行まで挑戦可能です(7回目の6400円は資金不足でできない)。
18/38というルーレットの赤or黒の的中確率で、(3)を実施した場合、6回目終了時点で全部外れになっている確率は2.1%です。つまり、97.9%の人は翌朝に「儲ける」ことができています。

儲かっている人の比率は以下のようになります。
 (1) ほぼ0%
 (2) 23.4%
 (3) 97.9%


ここでのギャンブルの目的は儲けることだとしようという当初の目的を考えた時、勝利を手繰り寄せる正しい戦術は(1)でも(2)でもないことは分かります。(マーチンゲールの法則が最強かは別問題)

「つまりギャンブルで儲けることを目的にするならば、確率よりもボラティリティ(変動の激しさ)が高いことのほうが重要なのだ」という言葉を借りるなら、「(マーチンゲールの法則が勝った。)つまりギャンブルで儲けることを目的にするならば、ボラティリティよりも勝率が高いことの方が重要なのだ。」となります。


【おまけ】
「確率的には宝くじに当らないだろうけれど、万一のことがあるから宝くじを買っておこう」という人は、「きっと交通事故にはあわないだろうけれど、万一のことがあるから生命保険に入っておこう」と考えるべき。これが論理的に正しい解釈だ。

これも論理的誤りでしょう。
「可能性が高いかどうか(確率)や期待値が掛け金に近いかどうかよりも、可能性があるかどうか(ボラティリティが十分に高いかどうか)のほうが重要」として確率や期待値を無視して可能性の有無で万が一を考えていてはキリがない。
その論理が正しいなら「今日、子どもが暴漢に襲われて撲殺される可能性もあるからボディーガードを雇っておこう」です。

確率を無視してボラティリティの大小のみで判断するなら、生命保険なんてものよりもボディーガードだろう。家に武装集団が侵入してきて家族全員が殺されたらどうするんだ。その可能性は0じゃないぞ。
「きっと家が襲撃されないだろうけれど、万一のことがあるからボディーガードを雇っておこう」と考えるべき。これが論理的に正しい解釈だ。