最低賃金は有効な貧困対策か (川口大司氏)

こんなスライドを見つけました。私は感覚的には思っていたがデータが無かったところを見事に説明してくれるスライドでした。

昨今「格差拡大」「ワーキングプア増大」対策の1つとして最低賃金の引き上げが叫ばれています。
しかし、川口氏の資料では最低賃金引き上げによる貧困対策の有効性を否定しており、私も同じ意見です。

なお、最低賃金引き上げが有効ではないという論で最も有名なものは「最低賃金引き上げが企業の人件費上昇圧力になって雇用が減る、または海外に移転してしまう」というものです。川口氏もその点については検討されていますが、素晴らしいと思ったのは別の視点です。

それは、最低賃金で働いているような人がどのような人なのかをしっかり分析していることです。
従来は最低賃金労働者の中身を分析するような議論はあまり聞きませんでした。しかし、川口氏はここを丁寧に分析しています。これによると以下のようになっています。
  • 最低賃金労働者の約70%は世帯主ではない。
  • 最低賃金労働者のうち、貧困世帯(200万以下)の世帯主、の割合はさほど高くない。(約10‐14%)
  • 最低賃金労働者の半数近くが中・上位所得世帯(500万以上)の世帯員である。⇒最低賃金の上昇によって恩恵を受けるのは、貧困世帯の人々ではなく、中所得以上の世帯の配偶者や子供である。
分析の結果によると、、低所得者層を救うはずの最低賃金引き上げが年収500万円以上の世帯の収入アップにつながるということになるようです。
ワーキングプア=低所得者=最低賃金としてしまいがちですが、どうも2つ目と3つ目は必ずしもリンクしないようです。

最低賃金で働いている労働者となると、スーパーレジ係のパートやコンビニバイトの学生など、他に主な収入を稼ぐ世帯主がいる世帯の人という姿が多いようですね。そうするとワーキングプア対策で最低賃金を上げるのはあまりうまい手ではないことになります。一部の最低賃金で働いているワーキングプアの方にお金も渡りますが、それ以外のところに渡る割合があまりにも大きすぎます。しかもそれが年収500万円以上の世帯の収入アップのためとあってはワーキングプアの方も納得いかないでしょう。


こういうデータを見てみるというのはおもしろいものです。



個人的にはベーシックインカムを代案として考えています。
ベーシックインカムなら扶養、配偶者控除、生活保護で発生する働かないメリットが無くなりますし、母子加算はあっても父子加算は無いようなおかしな事態も避けられます。そして、余計な審査コストなどもかかりません。
ただ、負の所得税などと合わせて勉強が必要な分野です。



なお、上は説明用にスライドになっていますが、川口氏のレポートはこちら (Is Minimum Wage an Effective Anti-Poverty Policy in Japan?)