「元本保証の商品は無いの?」
「元本が減るのは嫌」

お金の運用の話になるとこのような声はよく聞きます。
しかし、元本に"拘る"のは無意味でしょう。


元本保証は重要?


【問題】
基本月収は50万円。このうち5万円はギャンブルできます。コインで表が出ると10万円追加で貰え、コインで裏が出るとその5万円は没収。
  (A)このギャンブルをやらない
  (B)このギャンブルをやる
  
AとBでどちらを選ぶべきでしょう?
Aは確実に50万円が保証されます。
Bは50万円が保証されません。5万円損することがあります。でもBを選んだ場合の月収の期待値は52.5万円です。
元本は保証されませんが「どうしてもその月の月収が45万円では困る。50万じゃないとダメ」という事情が無い限りはBを選ぶべきです。
1年間を終わったときのシミュレーションをしてみるとBの方が収入が多くなる可能性は高い。もちろん、Bを選んで年間3勝以下だと、一切ギャンブルしないAの600万円より損します。
しかし、3勝9敗で585万円となった場合にそんなに困るのでしょうか?
3勝以下のケースを想定して"損をしないこと"に拘る意味はあるのでしょうか?
損をする可能性もありますが、損をしても今すぐ困ることはありません。それでいて毎回の期待リターンは+50%と大きくプラスで最終的にも儲かるかの性が高いのです。それならこのギャンブルをやるべきでしょう。


上の例題は、期待リターンが50%と大きな場合だったので、元本割れのリスクを冒してもリターンを取りにいうという人も多いかもしれません。しかし、現実にはそんなに美味しい話はありません。
それでも元本保証に"拘る"必然性はありません。

せっかく貯めた1000万円が10万円になったら多くの人が困ります。しかし、1000万円が990万円になって(精神的に嫌だというのは除いて)困る人はどれほどいるでしょうか?
そんなに困る人はいませんよね。
それなら「1日で、50%の確率で10万円減る or 50%の確率で11万増える」のように、10万円減るリスクがあってもその分だけ期待リターンがプラスならそのリスクを冒す価値があるはずです。

株式や投資信託への投資も同じです。減ることもあれば、増えることもあります。投資信託なら1日ごとにプラスだったりマイナスだったりします。しかし、上の話と同様に、そのリスクに見合うだけの期待リターンが想定されるなら資金を投じる価値があります。


===ちょいとコーヒーブレイク===
「過去のデータは未来を保証しない」という言葉を使って、リスク資産(株式、債券、投資信託等)の将来の期待リターンがプラスとは限らないという人がいます。しかし、これは全く合理的ではありません。

サッカーで、FCバルセロナのような強豪チームと3部リーグのチームの対戦で賭けをする場合にオッズはイーブンになりません。バルセロナのオッズが1.1倍のようにバルセロナの方が圧倒的に勝率が高いとされるでしょう。これが合理的な倍率とされます。
では、このオッズの根拠はどこから来たのか?
それは過去のデータです。

過去のバルセロナの選手達のパフォーマンスを見て、この試合で発揮されるだろうパフォーマンスを予測しています。過去の3部リーグの選手達のパフォーマンスから、この試合で発揮されるだろうパフォーマンスを予測しています。
それを突き合せてバルセロナ有利という予想がなされます。
3部や4部リーグのチームがトップリーグのチームを破ることは時々あるように、過去のパフォーマンスは必ずしも将来を保証はしません。FCバルセロナが勝つかは終わってみないと分かりません。
しかし、事前の予想の段階ではFCバルセロナが有利というのが合理的な予想となります。

リスク資産の将来の値動きもどうなるかは分かりません。しかし、分からないなりに、その時点で分かっているデータから判断して、FCバルセロナが勝つ可能性が高そうだという予想同様に、どちらの確率が高そうかという予想は立てられます。これが合理的判断です。
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でも、世間では「リスク資産は怖い」という印象があります。「株で今まで貯めた住宅購入資金を全部失った」というような話もあります。リスク資産に投資することで困ったことになる人も相当数います。


ん?やはり、リスク資産は怖いのでしょうか?


これは上にも書きましたが、「困るか」「困らないか」です。投資の用語で言うところのリスク許容度です。


10万円と投じて「-10万」or「+11万」というギャンブルの期待リターンは+5000円です。
しかし、期待リターンはプラスだからといって資金1000万円の人が1000万円全部を投資すると、損した場合にライフプランが大きく変わってしまいますので、望ましくありません。このようにその投資(ギャンブル)で想定される損失額が実現すると困ってしまうギャンブルはするべきではありません。
しかし、資金1000万円の人がこのギャンブルに10万円くらい賭けても問題ないでしょう。損しても困りませんから。


このように、想定される損失額が実現した時に「困るか」「困らないか」が投資の根拠になるべきです。


元本を頑なに守る人と最大損失の許容度が-1%の人で何が違うでしょうか?普通預金とMMFのような差です。
リスク資産を頑なに拒絶して元本保証に"拘る"人は、MMFに資金を投じる人と生活上で何か違うのでしょうか?MMFだと元本割れするかもしれませんが、多少元本割れしたところで生活上問題になることは無いでしょう。
そのリスクを取る代わりに普通預金より高い利回りを実現できる方を選ぶ人が多いでしょうし、合理的判断ともいえます。(普通預金の方が利便性が高いからMMFより普通預金を選ぶ、のように利回り以外の要因によって普通預金が優勢になることはあり得る)

結局はどこまでならリスクを取っても大丈夫かに帰結します。
元本に拘ることによって守られるものは元本と損失回避だけです。