「4000万円を年6%で運用すると年300万円ずつ使って27年持つ」

このような意見を聞いたことはありませんか?数字の部分は5000万円だったり5%だったり250万ずつだったりといろいろなパターンがありますが、同じような主張のことです。
(上の数字はExcelを使って計算したのであっていると思いますが、ひょっとしたら間違っているかも)

しかし、これにはウソと言っていいほどの大きな問題があります。

4000万円を期待リターン6%の投資対象に投資して年300万ずつ使うと、27年持たない公算が大です。

リターンが固定リターンならこのような意見の通りです。大きな問題はありません。(小さな問題は残りますが)
しかし、リスク資産に投資する場合、そのポートフォリオのリターンが期待通り年6%だったとしても大きな問題があります。それはボラティリティによってリターンが変動することで、マイナス方向へ振れ幅が大きくなった時に取り崩したお金のダメージが大きいことです。

少しシミュレーションをしてみます。
仮に[1年目-40%、2年目-10%、3年目±0、4年目±0、5年目+150%]とすると、このポートフォリオの5年リターンは+35%、年平均でも6%を上回ります。この条件で毎年300万を取り崩しているとどうなるでしょう。
(ちなみに固定で年6%のリターンの場合は、5年間の運用/取り崩しで3600万円ほど残っている計算です)

・1年目(-40%) → 4000万×0.6-300万=2100万
・2年目(-10%) → 2100万×0.9-300万=1590万
・3年目(±0) → 1590万×1-300万=1290万
・4年目(±0) → 1290万×1-300万=990万
・5年目(+150%) → 990万×2.5-300万=1680万

あれ?1680万円しか残っていません。ポートフォリオは年平均6%より高いリターンを記録したのに、固定で年6%のリターンだった時の半額以下しか残っていません。「●万円を年▲%で運用すると年■万円ずつ使って×年持つ」派の理論だと1600万円台になるのは20年目くらいです。

この差はどこから生まれたか。
これは元本が大きく減っている時期に300万円という定額での取り崩しを行ったことが原因です。運用環境が良くて元本が大きい時は多少元本が減ってもすぐに回復できます。しかし、同じ金額でも元本が小さい時には取り崩し金額の元本に対する割合が大きくなるので、その後の回復が難しくなります。

このようにボラティリティがある投資対象の場合、定額で取り崩すと下振れした時に大きなマイナスの影響を受けます。リスク資産で運用する場合と固定リターンでは全く別物です。期待リターン以上のリターンが達成されたとしても、固定リターンの時よりも早く資産が枯渇する可能性があります。この点は要注意です。
(この欠点を克服するために定率取り崩しも提唱されていますが、定率の場合は取り崩せる額が一定しないという問題がある)



以下は余談。
リターンが固定リターンなら大きな問題はなくても、小さな問題は残ると書きましたが、その問題点。
仮に固定で年6%のリターンが期待できるならば、その時の経済状況はどうなっているのだろう。年6%が固定ということは国債や預金などでそれだけの利回りが確保できるということで、今よりはインフレ率が高いはず。仮にインフレ率が年4%としても20年で物価は2.19倍、年5%だと20年で物価は2.65倍。
初年度の300万円と同じ価値のおカネが欲しいならば、700万円程度引き出さないといけなくなります。毎年定額で取り崩していくという前提が現実的だろうか・・・