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バンガードが日本で直販に乗り出すかという話が報じられました。

米バンガード、日本でファンド直販を検討−提携にも引き続き門戸開く(Bloomberg)
世界2位の資産運用会社バンガード・グループが、日本の個人投資家向けに投資信託の直接販売を検討している。米国に比べて知名度がまだ低い日本で存在感を高め、運用資産を増やそうとしている。

日本法人の代表取締役のディビッド・キム氏へのインタビューで,直販の可能性を検討という記事です。バンガードの評価は主戦場であるアメリカのみならず日本でも高く,日本でもバンガード(の日本版)があったらな…という声は投資家から聞こえます。

以前にも同じような直販があるのか?という報道がありましたが,ここでまた同じような報道です。
上記の報道はあくまで検討中ということで具体的な話はないので投資家としては様子見でいいのでしょう。


ただ,私はちょうどBloombergの記事があったのとほぼ同じタイミングで公開された世界最強の運用会社・バンガード社の投資信託の秘密を解説! バンガード社のインデックスファンドの強みとそれを実現する「アットコストの原則」とは?という記事を書くにあたってバンガードについていろいろ調べていました。

その際に,仮に日本でバンガードが直販をしたらどうなりそうかということも調べて考えていました。

ということで,仮に日本でバンガードが直販をしたらどうなりそうかというところを少しだけ書いてみます。まあ,「ボクの考える最強の日本代表ベストイレブン」みたいな話と思って聞いてください。

そもそも日本で直販をするのかがわからない

しかし,その前にまずは上記の報道からどれほど直販の可能性があるのか,ということを想像してみると,あまり期待できないかな…というところです。
取材に答えているキム氏は日本の代表ということですので,当然自身の担当エリアでビジネスを広げたいと考えているはずです。そうなると直販であれ何であれ日本でビジネスを拡大するあらゆる手段は検討しているはずです。

そのキム氏にインタビューをすれば以下のような答えにはなるでしょう。(日本語の記事はオリジナルの抜粋でキム氏の発言の要約になっており,元記事を読んだ方がそのニュアンスがわかります -
Vanguard Ponders a Big Change in Japan: Selling Its Funds Directly
)
“You have to think very carefully about what’s the ability of an American company to come in, create a name essentially from scratch, create an infrastructure, gain clients and all that kind of thing. It’s certainly not impossible," said Kim. “We are passionate about it but what is the right timing; what’s the right approach; how do we do this in a way that will frankly be prudent for everyone involved?"
この言葉の選び方から想像するに,まだまだ課題山積というところのようです。


仮に日本で直販したとして,今の日本の投資環境で競争力を持てるようなサービスになるのか?

さて,仮にバンガードが直販を行うことになったとしてどのようなサービスになるのでしょうか?

アメリカでバンガードが提供するファンドが素晴らしいのは周知のとおりです。数多くの商品があり,低コストで提供されています。しかし,日本でファンド展開する際に同じような素晴らしい品揃えになるでしょうか?

しかし,バンガードがすでに直販に乗り出しているオーストラリアやイギリスなどを見ると私はこの点が懐疑的です。バンガードが長い間直販を行っているオーストラリアのバンガードのサイトを見るとサービスや商品情報がありますが,これを見た方いますでしょうか?
アメリカのバンガードと違った姿が見えてきます。


バンガードオーストラリアの商品リスト

  • 小額から投資できる一般向けの投資信託でも最低投資額が5000AUDと小額投資できません。
  • 一般向けの投資信託は信託報酬はけっしてアメリカのようには安くありません。例えばMSCI World ex-Australiaで最初の5万ドルは0.90%で,10万ドルまでが0.60%で10万ドル超が0.35%。これに売買時のスプレッドコストが0.08%。
  • Wholesaleになると信託報酬は安くなるが,初期投資額が50万AUDからと非常に高額です。また信託報酬も安くなってもMSCI World ex-Australia で0.18%であり,売買スプレッドは0.08%のまま。
  • VTS (CRSP US Total Market Index)の0.04%,VEU(FTSE All-World ex US Index)の0.11%のようにManagement Feeが低いETFはいくつかありますが,数は多くありません。また,これらはETFなので直販とはちょっと違いますかね。

仮にこのオーストラリアと同じものを日本で展開したとしても既存のeMAXIS Slimなどの低信託報酬インデックスファンドたちの牙城を崩せるものになるとは思えないのです。


次にイギリスを見てみます。イギリスはまたオーストラリアと違いますが,やはりアメリカとは全く違う状況です。

バンガードUKの商品リスト

VT相当のインデックスファンドで「Vanguard FTSE Global All Cap Index Fund」がありますが,こちらのOngoing Chargeは0.24%です。高くはありませんが,日本にはすでに同水準で「楽天・全世界株式インデックス・ファンド」があるように,今の低コスト競争がそれなりに進んだ日本で競争力があるかというと微妙な水準です。
口座管理手数料も残高の0.15%かかります。(上限は375ポンドなので残高25万ポンド以上は追加手数料なし)
また,最低投資額も初期投資額が500GBPで追加投資の最低投資額は100GBPとなっており,昨今の日本の環境と比べると比較的まとまったお金が必要になります。


これらのバンガードの直販先行事例を見ると,仮に日本において直販を行うとなった場合,アメリカでバンガードが行っている直販とは全く別物になりそうです。アメリカにおいては莫大な資金がバンガードのファンドに集まっており,それが大きなコスト引き下げを実現できる理由になっているのでしょう。
アメリカと比べて小規模なオーストラリアやイギリスではアメリカと比べて高コストになってしまうのはバンガードのアットコスト(適正価格,受益者負担)の原則からみても仕方ありません。

※バンガードのアットコストの方針については、こちらに記事を書きました→世界最強の運用会社・バンガード社の投資信託の秘密を解説! バンガード社のインデックスファンドの強みとそれを実現する「アットコストの原則」とは?

日本は最近の経済成長はいまいちですが,依然として経済的には大国の一つであり,イギリス並かそれ以上にポテンシャルはあるかもしれません。
しかし,それでもインフラを用意して日本でサービスを提供して,そのコストを投資家に負担してもらうとなると,そんなに信託報酬を下げたファンドは展開できないのではないかと思うのです。
また、日本の他証券会社のように数百円といった小額から買い付け可能にしたり,口座手数料を取らないなどととやってしまってはさらにコストアップ要因になってしまいます。バンガードのアットコストの理念があることを踏まえると,仮に日本で直販が行われるにしてもアメリカのようなサービスや商品群になるとは考えにくく,バンガード直販で素晴らしい商品が数多く提供されるようになるという未来は想像しにくいところです。

こんな私の勝手な予想がいい意味で裏切られるのならいいのですが…




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