「消費税10%への引き上げ延期」「軽減税率導入?」

こんな話があっての国政選挙を受けてか、消費税の議論が再燃しています。

その中で、「消費税を増税しても税収は増えない」みたいな主張がありますが。この論理がずさんすぎます。

だいたい、この論者が語る話は過去の消費税3%での導入時と5%への引き上げ後の税収の話です。
例えば、「消費税 増税 税収」でGoogle検索した時に一番上に引っかかったのは消費税と税収の関係をグラフ化してみる(2014年)(最新) (Garbage NEWS.com)でしたが、ここでは以下のようなグラフと結論が掲載されています。
今回作成したグラフから、「日本における過去の経験則として」把握できるのは、「消費税をアップしても中長期的には税収全体は増加しない」という事実。

しかし、この手の話は論理として大いなる欠点を抱えています。

小数の法則/擬似相関の罠

「消費税を増税しても減収になる」という主張の多くは、過去の消費税導入時及び5%への税率引き上げ後の税収の推移を根拠にしています。
「消費税率を上げてもトータルでの税収は減っているのだから、消費税率の引き上げは減収になる。」という論理です。

これは典型的な小数の法則です。
※小数の法則: 試行回数が少ないにもかかわらず大数の法則が当てはまると錯覚すること

「AになったらBになった」ということはあるでしょう。しかし、これは因果関係とは別物です。
例えば、以下のようなものは因果関係はあるでしょうか。
  • 今週の月曜日と金曜日はお気に入りの靴を履いたら雨が降った。お気に入りの靴を履くと雨が降る
  • 民主党が政権を取ったら宮城県/福島県沖で津波を伴う大地震があった。民主党が政権を取ると津波を伴う大地震が起きる。

上のような主張に関して因果関係はないと答える人は多いでしょう。というのも、確かに「AになったらBになった」ですが、AがBの原因ではなく、たまたま同時に発生したというだけの話です。

標本数が少ないのに、それを統計処理して因果関係ありとしてしまうのは、やってはいけません。
ましてや、サンプルサイズが2で因果関係ありと判断するのは早計すぎます。コイン投げで10円玉の表裏と100円玉の表裏が2回連続で一致する可能性も25%はありますが、これは当然に偶然でしょう。


見たいものしか見ない

(1)他の要因を無視
税収の増減要因は消費税以外にもあるはずです。

一般会計 税収
(単位は兆円 / クリックで拡大します)


例えば、消費税は1989年に導入されましたが、導入以前も税収は大きく変動しました。上記のグラフでも1987年以前には税収は大きく動いています。
1997年から2013年は消費税率は5%で一定でしたが変動しています。2007年~2009年は51兆円→38兆円と大きく税収が変化しています。また、同じ消費税5%の世界でも2003年→2007年は43.3兆円→51兆円と増えています。

1977年→1988年で33.5兆円増収、2007年→2009年で13兆円減収になったように消費税率以外の要因でも大きく税収が動きます。

消費税の税率と税収だけみて、税収の増減が消費税のせいだと言うのならば、消費税さえなければ税収は減らない、もしくはそのトレンドは変化しないということになります。では、消費税導入前に税収は大きく伸びていますが、これをどう説明するのでしょうか。
税収の決定要因として消費税しか考慮していない、もしくは他の要因は無視できるほど小さいのですから「消費税を導入しなければ(税率を上けなければ)毎年税収は増えていく」という主張になりそうです。
具体的には1977年→1988年の11年間で税収は2.93倍に増えています。年率換算すると1.103倍/年のペースです。では仮に消費税を導入しなければ今の税収はどうなっていたでしょうか。
「税収の決定要因は消費税率のみ」を当てはめていくと、このトレンドは継続していったはずで2013年にはの一般会計の税収は584兆円になります。これが現実的な試算でしょうか。

普通に考えるとこの時期の税収変化は消費税率以外の要因(高度経済成長→バブルという成長)の影響でしょう。
税収変化は増えるにしろ減るにしろ、消費税率変化以外の要素が大きく関与していることは明らかです。

なお、メガバンク全行、ついに税金を払う(東洋経済 Online) のように、法人税については過去の損失の繰り越しゆえに支払ってこなかった大企業があったこともあります。


(2) 実は他の税金が減税されている
1番にも関連しますが、「消費税率の引き上げ→税収減」派の主張では、他の税金が減税されている点に触れていない議論が多い。
所得税の最高税率は以下の通りです。
    • 60%:1988年(消費税導入前年)
    • 50%:1989年~1998年(消費税導入&税率引き上げ)
    • 37%:1999年~2006年(消費税引き上げの2年後から)
    • 40%:2007年~

上記は最高税率ですが、それ以外でも所得税は税率が下がっており、これが税収減の要因になっているとは思わないのでしょうか。


(2) 消費税と地方消費税
1997年の消費税税率アップ(3%から5%)により、消費税による税収は4兆円ほど上乗せされ
Garbage NEWS.comの記述です。1997年の消費税率アップで税収が4兆円増えたという話ですが、この税率アップの中身は国税である消費税1%と地方税である地方消費税1%です。

財務省などが挙げている一般会計の数字は国税の数字であり、地方税は入っていません。
つまり、Garbage NEWS.comで取り上げている一般会計のグラフに入ってくるのは1%分のはずです。「消費税1%で一般会計4兆円が上乗せ」という主張なのか「国税と地方税を合わせた消費税2%で4兆円上乗せ」という話なのか分かりませんが、前者なら消費税1%=4兆円の根拠がほしいですし、後者なら一般会計の数字で比較するのは不適切でしょう。

また、2007年には3兆円規模の地方への財源移譲の改革が行われており、これも一般会計の税収減になっています。
一般会計の税収の数字をもって議論をしながら、部分部分では地方税も混ぜていては話になりません。



消費税導入における税収全体の変化の影響を語るのはいいのですが、「消費税を上げた年以降に税収が下がっていることが2回あった→消費税増税は税収減」はあまりにもナイーブな主張すぎではないでしょうか。



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