先日、元国会議員秘書が、医療費を窓口で一旦全額支払ってもらうようにすることを提案だと?と書いたところ、そこで取り上げた東猴氏がブログで吊られた男さんへのご意見にお答えを書かれていました。

わざわざお返事いただいたものを無視してただの文句言いっぱなしでもよくないので、これに対してもここで書かせていただきます。


東猴氏は私が指摘した「お金がない人や市役所に行くのが難しい人をどうするのか?」といった指摘に対してフランスのヴィタルカードをソリューション例として挙げられています。
また、ご指摘のワーキングプアの方や高齢者など市役所に足を運ぶのが手間であったり時間がない人はどうするかという点ですが、例えばフランスの医療費還付制度ではクレジット機能付の健康保険証を発行しておりオンラインで指定口座に差額分を還付できるような制度を採っています。

ヴィタルカードというらしいのですが、日本もこういったクレジットカード機能付の健康保険証などを導入すれば市役所への手続きに行く手間や、その手続きを行う市役所職員の手間も大幅に軽減されるのではないかと思います。
「ヴィタルカードにクレジット機能ってあったっけ?」とも思ったのですが、それは置いておきます。

確かに市役所に足を運ぶのが大変な人にとってはヴィタルカードは便利で、市役所に行く手間という問題を回避してくれます。

しかし、これでは本末転倒に思えます。
東猴氏の主張は以下のような流れでした。


ヴィタルカードを導入してしまえば、この前提は覆ってしまいます。市役所に行く手間を入れることが大事だったのに市役所に行く手間を省いてしまっては当初の目論見が瓦解してしまいます。

軽微な症状(虫指され等)でも通院される方を減らしたいとのことですが、この方法では減りません。窓口でカード出して2000円払って帰れば数日後に2000円が還付されてきているのであれば、軽微な症状で通院することをやめる理由にはなりません。(クレジットカード機能なんて持たせたら一時金の支払いすらなくなるので今の無料と同じでさらに意味がない)


今の日本の医療と違うのは一度お金を払って数日後に口座にお金が返金される点くらいになってしまいます。

では、「医療費の一時払いの現金還付&ヴィタルカード」で、医療費が削減されるでしょうか?削減されるとすればどういう受診が減るのでしょうか?

顕著に減るだろうと思われる受診は明白で、お金のない人です。
最初の数千円〜という一時金を払えない人たちが受診をためらうようになります。また、一時金が数万円単位ともなりそうであればなおさら受診できなくなります。
「そんな金がない世帯なんてほとんどないよ」のようなコメントもあるかもしれませんが、前回も書いたように30代の2人以上の世帯で「貯蓄がない」と答えた世帯の割合は30.2%です。(1人世帯はそれ以上)です。
結構、このデメリットの影響は大きいでしょう。

提案されている方法(一時払いの現金還付&ヴィタルカード)では狙った効果は望めずに弊害は大きくなりかねません。


そもそも医療費削減のターゲットはそこでいいのか?

本レポートは、海野薬剤師が現場にいて感じた軽微な症状(虫指され等)でも通院される方が多いという現状が医療費が減らせない原因であり、それを改めないといけないのではないかというメッセージを大枠として書かせていただきました。

この現状は特に医療負担一部ゼロの子ども医療に多いそうです。
これが提案の理由とのことですが、そもそも論としてこの着眼点は良いのでしょうか?

上の文章をまとめると以下のようになります。


医療費がどれほどかかっているかということで国民医療費の概況の最新版(平成23年度)を見てみます。

うーん…

●子どもの医療費は大きくない
0〜4歳は1兆2418億円で全体比は3.5%です。0歳〜19歳でも2兆9127億円で7.5%です。
なお、60歳〜64歳の医療費は3兆9846億円であり、この5年の世代で未成年(0〜19歳)の20世代を大きく上回っています。

●子どもにかかる医療費の中で軽微な症状(虫指され等)はどれほどある?
軽微な症状での通院という正確な数字は取れませんが、国民医療費の概況には傷病分類、入院−入院外別の医療費の記載があります。(この数字は歯科診療医療費、薬局調剤医療費が除かれた医科診療医療費のみになっており、その総額27兆8129億円になります。)

この「傷病分類、入院−入院外別」の記載では5歳区切りではなく0〜14歳という区切りなのでここを見てみます。
0~14歳の総額は1兆7544億円であり、6294億円(35.9%)が入院1兆1251億円(64.1%)が入院外です。入院は軽微とは思えませんし、通院でもありませんから指摘されているような軽微な通院には該当しないでしょう。
ですので、軽微な通院に該当しそうなのは1兆1251億円と言えそうです。
しかし、この1兆1251億円の中には「先天奇形、変形及び染色体異常」や少ないながらも「新生物」など軽微な症状(虫指され等)とは言えないようなものもあります。また、自治体によって制度は違い、全ての自治体において通院が14歳まで無料ということはありません。
厳密に軽微な症状での通院による医療費を見積もるのは難しい…

●1人当たりの医療費を見ても子どもの医療費は特別に多いわけではない
少し見方を変えてみます。先の薬剤費も含んだ5歳区切りの年齢別医療費に戻って1人当たりの医療費で入院外の費用を見ます。
「医療費無料の子どもは軽微な症状で通院することが非常に多くて医療費が多くかかっている」が正しいとすれば、1人当たりの医療費も多くなっていそうです。

さすがに病気をしやすい0〜4歳(10万2900円)は大きくなっていますが、5〜9歳(5万8700円)ともなると40〜44歳(5万6600円)とほぼ同程度であり、医療費無料の子どもで極端に病院通いが多いというようにも見えません。

若干、医療費無料の子どもの方が大人よりも軽微な症状で病院に来るケースは多いのでしょう。しかし、これらの数字をみる限りはそれによって医療費が飛びぬけて増えているようには思えません。


このように考えてみると、「医療費ゼロの子どもで軽微な症状で通院される人が多いこと」を医療費削減できない原因とする意見に賛同するのは非常に難しい。
確かにそういう受診者は0ではなく無駄な医療費がかかっているとは言えるでしょう。しかし、医療費全体からみるとそう多い割合ではありません。
それを少しでも減らすためにお金がない人が病院にかかりにくくなるというデメリットを受けてまで行うような施策(しかもヴィタルカードを配ってしまえば効果は非常に薄い)なのでしょうか。

ここには非常に疑問を感じざるを得ません。


では、どうするべきか?

いろいろな施策はあると思うのですが…

東猴氏も「医療費の50%以上が65歳以上の高齢者に対するものだ。」と書かれているようにここが大きな課題であり、世代別でみた時には金持ちである高齢者世代の医療費自己負担比率を引き上げる方がよっぽど効果は大きくなります。
元の提案では「現状1割負担の人を2割負担に引き上げる。」と書いていましたが、これを2割ではなく21%に引き上げる方が、子ども世帯への一時払いを導入するよりも効果は大きいのではないでしょうか。そしてデメリットも小さい。

そもそも高齢者になると自己負担が減るという仕組みこそが真っ先にメスが入れられてもいいところです。

子ども世帯の安易な受診が多いと言いますが、そんなことはないでしょう。
最近は共働き世帯の方が専業主婦世帯よりも圧倒的に多く、多少の熱があっても病院に連れて行かない親などざらです。保育園でも「昨晩は熱があったけど今日は下がったから…」といって鼻水ずるずるさせていておなかが緩い子を預けていく親は結構います。
専業主婦で時間があったり、忙しい中でも軽微な症状でも子どもを病院に連れていく親もいるでしょうが、日常生活の忙しさがそれを食い止める要因になっています。

一方、高齢者は違います。
高齢者になると働いていない人が多数です。言ってしまえば暇です。「病院のサロン化」とも言われますが、暇で金がある高齢者世帯こそが安易な受診を繰り返している大勢力です。
自己負担は1割で、高額療養度制度の上限額も低く、時間はある。そりゃ簡単に病院を受診できます。

安易な受診を止めるのはここでしょう。

ここに手を入れたり、安易な薬の処方を減らす(一般薬で対応できるような症状なら処方薬を出さない等)といった対応の方がはるかに効率的であり、効果に対するデメリットは小さいのではないでしょうか。



【関連コンテンツ】