前回の『米国債を買え』 ・・・と単純ではない (1)の続き。

今回はデータをしっかり見る、という話です。

(1) 米国債の金利は今だけ特別に低いのか?
林氏は米国債への投資の理由として「長期の米国債は日本との金利差が大きいので、為替変動分以上の金利を稼ぎだす」と主張しています。
それでは今すぐ米国債を買えばいいのかと言うと、"今"は米国債に人気が集まっているので金利が低くなっているので米国債を買うタイミングを待った方が良いという主張をされています。

しかし、金利が低いのは今だけの話でしょうか?以下は米30年国債の金利の推移です。
30Year_Treasury

金利は上下動を繰り返しながら順調に低下しています。決して、"今"だけが金利が低いわけではありません。
金利6%は20世紀の話です。日本も国債金利は低迷し続けていますが、米国債も着実に金利が低下しているのです。
これは循環的なものかもしれませんが構造的な可能性もあります。グローバル化の進展による安い労働力共有などによって世界的に低インフレ圧力がかかっている可能性があります。


(2) 為替の変動はわからないのか?
著書の中で為替変動について、期間を操作して上下に動く確率が五分五分の印象を与える図などを用い、為替の先行きは分からないと説明しています。しかし、期間を伸ばすと違った絵が見えてきます。
USDJPY_1973_2011
上下動を繰り返しながらも順調に上値を切り下げつつ円高に向かっています。
短期的な為替の上下を予測するのは非常に困難です。
しかし、長期的には購買力平価の考え方が通用する変動をします。アメリカの方が金利が高い(=インフレ率が高い)状態が続くのであれば、基本的には円高トレンドが続きます。30年国債投資なら十分にこの購買力平価による為替変動の影響を受けるでしょう。


つまり、「米国30年債の金利」「ドル円の為替レート」を見ていると以下のトレンドが見て取れます。
 ●米国債の金利は低下傾向
 ●為替は円高傾向

これは「長期の米国債は日本との金利差が大きいので、為替変動分以上の金利を稼ぎだす」という主張にとっては都合が悪いデータです。


(3) 計算してみよう
これは全体を通じて見られる点ですが、初心者向けに書いているせいかデータの計算が甘くなっています。
例えば、米国債投資の成功事例が紹介されています。その1つに以下のような事例があります。
●2004年4月に利回り4.3%の米国債を1ドル=109円で買って「為替で損をしていても全体では利益が出ているはず」
林氏は「お見事の一言です」と褒めています。

では、本が出版された2011年8月までの約7年半で、その見事な投資はどうなっているのでしょうか?

複利の場合、ドル建で1.37倍に増えています。
しかし、為替は2011年8月前後は77円近辺でうろうろしています。77円とすると円建では0.97倍となり、3%程度損しています。

単利の場合、毎回の利払い時のレートが難しいのですが、単純化するために2004年4月〜2011年8月の平均レートで支払われたとすると、平均レートは102.8円です。
そうすると毎年の利払いは4.3×102.8÷109×7.5=30.41で、金利で30%強のプラスです。一方元本は109円→77円となっているので29.36%のマイナスです。全体的には+1%程度です。

これが見事な投資・・・でしょうか。大きく損はしていないものの「見事」とは言い難い結果です。



●最後に
最初に本を紹介したエントリーでも書きましたが、『証券会社が売りたがらない米国債を買え!』は王道の債券投資を勧めている点で、非常に素晴らしい着眼点の本です。
同じような投資信託の分散投資の本ばかりを何冊も読むくらいなら、その中の1冊とこの本を入れ替えておいた方が価値があります。
ただし、米国債を過剰に持ち上げている記述が見受けられるので、3割引きくらいで読むことをお勧めします。


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