先のエントリーでお勧めさせていただいた『証券会社が売りたがらない米国債を買え!』ですが、読む際の注意がてら、本の中の誤りやミスリードを誘う部分を一部紹介させていただきます。
データを読む面白い題材ですので2回に分けて取り上げさせていただきます。

なお、著者の林氏は、ダイヤモンド・オンラインの中でもこの本とリンクした証券会社が売りたがらない米国債を買え!という5本のコラムを書いています。

林氏は基本的には米国債のゼロクーポン債(30年)への投資を推奨しています。
米国債投資は有りだと思いますが、林氏が言うほど米国債投資は有利ではありません

米国債投資について、かなり著者の主張にとって都合がよく書かれています。



(1)都合がいいその1: パフォーマンス測定の終点が2010年末
日米の株式/債券のパフォーマンスを比較しているのですが、「2010年末までの10年、20年、30年」のパフォーマンスで比較しています。その数字で30年米国債が一番パフォーマンスが良く、安心で稼げるとしています。

さて、2007年までに林氏はこのようなことを言えたのでしょうか?
2010年末といえば、株式市場が1930年代以来の大幅下落に見舞われた後です。この時期は1930年の大恐慌以来、最も債券に有利な時期です。その時に債券が買っているからと言って株式より債券が有利は言えません。
厳密には計算していませんが、ほとんどの期間は米国株が勝っていたが、この2008-2010年にかかると数十年ぶりに米国債が勝ったと言えそうです。



(2)都合がいいその2: 配当を無視
株式には配当がありますが、林氏は株式の配当を無視しています。ところが、配当無と配当有では以下のように大きくパフォーマンスが異なります。
2011年11月末まで30年間の円建S&P500(配当込)のパフォーマンス
 ・配当無し指数: 100⇒354 (+254%)
 ・配当込み指数: 100⇒805 (+705%)


100円投資して354円と805円では全く違います。
証券会社が売りたがらない米国債を買え!』では配当無の指数と比較して米国債の方が大きく勝ったと主張していますが大きな誤りです。
2008年からの下げ相場を経験してなお、株式相場は力強いパフォーマンスを残し米国債30年とほぼ同じ水準です。(1)で書いたようにほとんどの期間で株式は米30年国債に勝っています。



(3)都合がいいその3: 将来の受け取り金利額を現在のレートで計算
証券会社が売りたがらない米国債を買え!』では、将来の受け取り金利額を現在の元本レートで計算するという致命的な過ちを犯しています。

具体的に言うと、「残存期間20年で年利3%のドル建債券を1ドル=100円で100万円購入した。100万円の3%は3万円で20年満期だから受け取り金利合計は60万円。だから1ドル=40円を下回らない限り損はしない」という主張です。

これは「円高が進行して元本が減っていくと、受取り金利が減る」という事実を見としています。円高が進行していく中で3万円の金利を想定していることが誤りです。

下表は円高が進行していく2つのケースのシミュレーションです。左は毎年同額の円高進行で、右側は定率の円高進行です。
FX_simulation

金利はドル建てなのですから、円高なれば円建の受取金利は減少します。
外貨の金利モノでは、円高が進むと元本の為替差損+金利減少というダブルパンチになります。「円高になっても3万円の金利があるから大丈夫」と言っていられません。円高が進行して元本が半分になれば金利も半分です。FXでスワップを狙う人でありがちな誤りです。

定率で円高になるシミュレーションは元本+受取金利が100万円を割る水準を求めましたが、この場合は54.3円が損益分岐点です。40円がブレークイーブンだという主張は全くもって間違いです。特に、投資当初から急激に円高が進行した場合には早々に受取金利が減るのでブレークイーブンの為替レートが54.3円よりも厳しくなります。


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