就活生組合に注目しています。就職活動に対する不満に対して活動を起こすという実行力は立派です。
その就活生組合から十七条から成る就職活動基本法の草案が発表されました。


これを見ての感想は「新たな利権団体?」というものです。

就活生の定義
ここで言う就活生とは、全ての求職中のもの・あるいは近い将来求職者になりうるものです。
特に、中学・高校・短大・専門学校・大学・大学院新卒者を主たる就活生として念頭に置きます。

就活生」はさんざんに出てくる用語であり、これは就活生組合の定義です。
就活生とは、全ての求職中のもの・あるいは近い将来求職者になりうるもの」という定義なら求職者でいいと思うのですが、就活生なる用語を使っています。この用語と共に「特に、中学・高校・短大・専門学校・大学・大学院新卒者を主たる就活生として念頭に置きます。」が重要なポイントになります。


就活生とは、全ての求職中のもの・あるいは近い将来求職者になりうるもの」という観点で就職活動基本法のいくつかの条文にコメントをさせていただきます。


(機会均衡の実質的担保)
第五条 前条、前々条実質的担保のために、新卒・既卒、顔写真、年齢、男女等の情報を履歴書・エントリーシート等によって開示させることを禁ずる。

これは就職活動を破壊するものです。仕事において各種要件が必要になる場合があります。例えば、Dr.を持っていることが必要条件な場合もあります。これを開示させることを禁ずるということは非常にくだらない。製薬会社のメディカルドクターなら医学部卒が必須です。


(営利目的の就活業排除)
第六条  何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就職活動に介入して利益を得てはならない。

これは法律の許可をすればいいのかもしれませんが、ヘッドハンティングの会社などが規制に引っ掛かります。転職斡旋の会社など多くの会社がありますが、彼らを規制するということでしょうか?
転職希望者や退職後に仕事を探すときにはどういう経路を活用すればいいのでしょうか?ハローワークしか利用できない?


(採用活動の社会化)
第七条  採用活動をするものは、一事業の短期的な利益だけではなく社会全体の長期的な利益が向上するような展望を持ち採用活動を行わなくてはならない。
 一 前項の目的を達成するために、特に大企業は、景気によらない中長期的な採用計画を提案しなければならない。

一企業が社会全体の利益向上を考えなくてはいけないというのは過剰な要求です。
学生や主婦たちが海外から安いものを仕入れて売るベンチャー企業を立ち上げる時に、彼らは社会全体の利益を考えて社員を募集しなくてはいけないのか?そんなことを考えて起業する人たちはほとんどいないはずです。「おもしろいことをやってみたい。それに賛同できるものは一緒に仕事しようぜ」「ここに儲ける機会がある。手伝ってみないかい」なんてものが多くのベンチャーの動機でしょう。
社会全体の長期的な利益が向上するような展望を持って採用活動を行える企業はほとんどありません。

大企業への中長期的な採用計画要望も意味不明です。
「景気によらない中長期的な採用計画を提案しなければならない」など到底無理な話です。
仮に予想外に好景気になって人手が足りなくなっても企業は雇用を増やせません。日本メーカーの予想に反してスマートフォンは急激に売れるようになりましたが、これらの変化に合わせて採用を変えることは認められません。コンビニなども長期的な出店計画を立ててそれに合わせた採用をしなくてはいけません。逆に、赤字に陥ってしまっても雇用計画通りに採用しなくてはいけなくなります。早期募集退職を募りつつ100人規模の採用をすることになります。
こんな不自由な環境では企業が生き残ることは非常に困難です。
これをやっていくと企業は非効率になり、景気は低迷して雇用は減少します。


(採用活動の期間等)
第九条  採用活動は、就活生の多様性に十分配慮するものでなくてはならず、特に大学新卒者の極端な優遇とそれ以外の就活生の極端な不利益を招来する「新卒一括採用」はこれを認めない。

一 特に大学新卒者の採用にあっては、その採用条件等の説明その他の日程は、採用日程は学事の日程に十分配慮したものでなくてはならず、採用活動それ自体は全学事日程の終了後に限らなくてはならない。 

支離滅裂ではないでしょうか。
「新卒一括採用を認めない」と言いつつも、「大学新卒者の採用日程は全学事日程の終了後に限らなくてはならない。」と新卒の採用時期は一括採用にせよと主張しています。
また、「大学新卒者の極端な優遇を認めない」と書きつつも「大学新卒者の採用活動に配慮せよ」というのも逆ですね。


(労働条件の明示)
第十一条  採用活動を行うものは、労働契約の締結に際し、就活生に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

一 特に営利目的の就職情報媒体は、努めて三十六協定の有無、過労死率やサービス残業時間等の「負の労働条件」を開示しなくてはならない。

企業いじめ。中小やベンチャー企業が就職情報媒体に募集を載せてもらうことが難しくなります。大手の大企業ならともかく、中小(特にベンチャー)ではサービス残業時間などを把握することは極めて困難でしょう。
そもそも、第二条で「就職活動の条件は、就活生と採用活動を行う者とが、対等の立場において決定すべきものである。」と宣言していますから、学生側も「負の採用条件」を開示すべきということでしょうか?


(採用基準の明確化)
第十二条 採用活動を行うものは、採用活動にあたっては、その仕事に必要なスキルを明確にし、合理的な選考基準を募集の際に明示すること。

無理。これはペーパーテストに慣れた学生の戯言です。
病院の医師募集で医師資格が必須のような最低条件は別にして合理的選考基準など存在しえない。
定量化できない要素が多すぎて全体の印象で決まるのが採用。例えば、独自性もある程度突き抜けていれば採用でも、突き抜けすぎていては問題となるから採用されないこともある。


(失業保険に当たる社会保障の給付)
第十条 前条の目的を達成するために、特に教育機関卒業後も就活を続ける者については、失業保険に相当する社会保障の給付を行わなくてはならない。
第十三条 採用活動にかかるすべての旅費については、採用活動が労働力のマッチングという公共性の高い目的をもつことに鑑みて、国または地方公共団体がその全額を負担しなければならない。

これはセットです。
General Electricの募集に応募しようとアメリカに行く旅費も国や地方公共団体が出すのですか?これは海外旅行が好きな若者には嬉しい制度です。失業保険相当のお金をもらいつつ、世界中を旅できます。上限額を設けるのでしょうか?そうすると本当に付きたい仕事のために金がかかってしまう就職活動をしてしまった人は年の途中で支援が打ち切りとなりますが・・・どうするのでしょう。


第十五条 中小企業を含む求人情報をハローワーク等で適切に提示することで、営利目的のナビサイト等に頼らない、企業間・学生間の公平な競争を実現すること。

就活生(全ての求職中のもの・あるいは近い将来求職者)の中から学生だけが公平な競争の対象であり、子育て後に仕事を探す主婦やリストラにあった人は公平でなくていいようです。
また、「中小企業を含む求人情報をハローワーク等で適切に提示する」ということですから中小企業は大変です。コンビニや飲み屋にアルバイトで就職というのも一つの就業形態です。地元の飲み屋は中小企業です。今まで彼らはちょっとした地元のフリーペーパー(営利目的ですね)などに掲載してもらうことなどはありましたが、今後はハローワークへの求人情報提供が要求されるようです。
ベンチャー企業も大変です。学生が起業して仲間に「俺、会社始めたんだけど一緒に働かない?」と個別に声をかけることは不法行為になるようです。(そもそも在学中の学生への勧誘が禁止)

また、投資銀行の幹部職の募集もアルバイト募集と混ぜてハローワークになるようです。特定業種の情報提供や交渉に優れた転職サイトなどがありますが、彼らは淘汰されるようです。(私の条件にあった転職候補企業を探してくれるコーディネーターは役立ったんですが・・・)


(就職活動の条件の決定)
第二条  就職活動の条件は、就活生と採用活動を行う者とが、対等の立場において決定すべきものである。
一  就活生と採用活動を行う者は、就職協約、その他両者間において決定された諸条件を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
(罰則)
第十七条 本法律案に違反する採用活動を行う者については、罰金・過料などの罰則に加え、企業名の公表・有期・無期の採用活動の禁止などの行政処分が下される。

第二条では、条件は対等の立場で決定し、就活生と採用活動を行う者の両者に信義誠実の原則があると謳っています。しかし、第十七条では採用活動を行う者についてのみ罰則が規定されています。一方は信義則を破ると罰則有で、一方は信義則を破っても罰則無。これで対等な立場ですか・・・
しかも、採用側の罰則には採用活動の禁止という非常に重い罰もあります。採用禁止などの処分を受けると将来を見限って退職する人も出るでしょう。特に他社から引き抜きがあるような替えがいない優秀な人ほど辞めてしまうでしょう。社内唯一の専門家がいなくなっても代替の人を採用できないと会社はつぶれかねません。(すし屋がすし職人を採用できない等)


あくまで草案とのことですが、非常に気になる内容が満載です。
期待はしているんですが、個人的にはこの内容は気に入りません。


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