先の『FX、債券、株式等のリターンの考え方 (予告)』で書いたとおり、『FXはノーリターン(税・コスト調整前)』というエントリーにいただいた意見への回答を書かせていただきます。
(多くはコメント欄でも回答済みですが、コメント欄は埋もれがちなので、新規エントリーにしています)


(1)FXや債券のリターンはゼロサムか?
債券はプラスサム、FXはゼロサムです。

まず、基本として現金をゼロサムと定義します。財布の中にある1万円は明日も1万円です。
そうすると現金と同じく国の信用度で成り立つ国債は金利がつくので、金利分だけプラスサムになります。このように債券はプラスサムです。
外国債券では日本の債券より表面利回りが高いものがあります。しかし、これらの外国債券の期待リターンは決して日本の債券より高くありません。特定の国の債券の方が期待リターンが高いのであれば皆がそちらに流れますので、利回りは低下します。
高い利回りのまま放置されているのは、それだけ為替で損する可能性があるからです。(高金利通貨が有利なら抜け目のないヘッジファンドや投資銀行がこぞって買いに回って先に書いたように利回りが低下します)
ですから、いくら金利差があっても期待リターンは「外国債券=日本債券」「外貨預金=円預金」です。
1への回答に戻ると、債券のリターンはプラスサムということです。

そして、FXのスワップポイントは金利差です。
外貨金利をそのまま受け取れる外貨預金の理論値が円預金と同水準の期待リターンです。外貨金利-日本円金利のFXではゼロサムになります。


(2)株式のリターンはゼロサムか?
株式のリターンはプラスサムです。
ニュースが株価に織り込み済みでも、その結果がゼロサムとはなりません。
人々は利益を出したいと思って企業に出資します。損するかもしれないリスクを負っているのですから、確実な利益より大きなリターン(リスクプレミアム)を要求します。確実に儲けたいと思っているなら1で説明したようにプラスサムな国債を買いますし、ゼロサムならなおさら誰も出資しません。
この「無リスク資産リターン+リスクプレミアム」の水準が、ニュースが適切に織り込まれた株価になります。
株を買っても利益が得られないゼロサム水準まで株価が上がってしまったら、人々は株を手放してプラスリターンの国債か銀行預金に資金を流します。そうすると株価は下がって、適切なプラスサムリターンの水準に戻ります。
このようにニュースを織り込んだ価格がプラスサムになっています。


(3)タイミングによっては損をするインデックス投資は丁半博打と同じか?
違います。タイミングによって損することがある=丁半博打ではありません。事前確率が重要です。

1回1万円で、当たりを引くと2万円もらえて、外れを引くと何ももらえないとします。
 ・箱Aは当たりが99本で外れが1本
 ・箱Bは当たりが50本で外れが50本
 ・箱Cは当たりが1本で外れが99本
箱A、箱B、箱Cはどれも失敗すれば損する可能性があります。しかし、「どれも当たりくじと外れくじがあるのだからどれも同じ。丁半博打と同じ」という人はいません。
箱Bはちょうどゼロサムで丁半博打と同じですが、箱Aは明らかにお得な箱、箱Cは明らかに損な箱です。
タイミングによっては損する可能性があっても、損する可能性が低ければ丁半博打とは違います。(より正確には、期待リターンを考える場合には、想定されるリターン×その実現確率の総和です)
インデックス投資に存する可能性があっても丁半博打と同じとは言えません。


(4)先物の一種であるFXがゼロリターンなら、同じ先物である(株式)先物もゼロリターンではないか?

これは誤解があります。先物とは債券先物、株式先物、金先物、原油先物のように、ある投資対象の先物です。先物商品の理論上のリターンは、その原資産のリターンに準じます。
株式先物であれば、株式のリターンに対応します。債券先物は債券のリターンに対応します。金先物は金のリターンに対応します。
債券先物=債券現物≠株式現物=株式先物です。
為替先物と株式先物は、原資産が違うのですから同じ先物でもリターンは異なります。
「先物は原資産が何であれ全部期待リターンが同じ」とはなりません。


(5)為替取引には「実需組」と「投機(FX)組」がいて実需組が損して投機組が儲けることはあるからプラスサムの場合もあり、その逆でマイナスサムの場合もあるのでは?
確かに為替取引に関わる人間をある区切りで分類すれば、儲かっているグループと儲かっていないグループに分けることもできるかもしれません。「今日は日本人はプラスでイギリス人はマイナス」とか。
しかし、それは投資における期待リターンの考えとは違います。一般的には投資の期待リターンを語る場合には事前確率で話をします。
宝くじで、橋本町1丁目で1等が出て橋本町1丁目のプラスリターンになることもあれば、1等が出なくてマイナスリターンになることもありえます。しかし、「宝くじのリターンはプラスともマイナスとも言えない」とは言いません。宝くじの期待リターンは事前確率であり約50%です。


(6)為替ヘッジなどのために高いコストを払うような人がいるのだからそれがFXの追加リターンになっているのでは?
残念ながらそうなりません。企業などが為替リスクを避けるために為替ヘッジをする際などに追加コストを払っているとしても、それはその為替ヘッジを売る銀行などの手数料に消えていきます。
株式において証券会社が株の売買取引手数料を取るのと同じです。証券会社に払った株式取引手数料は他の株式投資者のリターンにはなりません。
同様に為替取引において余計なコストを誰かが負担していても、それはFX投資家の手元には来ません。


(7)FXが「一方が儲けて一方が損するからゼロサム」と言うならば、株もゼロサムでは?
これは少し違います。AさんとBさんで為替取引と株式取引をしたケースで考えると違いがあります。

[AさんとBさんで為替取引をした場合]
為替がどちらかがに動いて、Aさんが利益を出せば、同時にBさんは同額の損失を出しています。逆にBさんが利益を出せば、Aさんは同額の損失を出します。

[AさんとBさんで株式取引をした場合(AさんがBさんから株を買った場合)]
この場合、株価が上がるとAさんは利益を出しますが、Bさんは損はしません。逆に株価が下がるとAさんは損失を出しますが、Bさんは得もしません。
この時に前者の株価上昇で利益が出る可能性の方が強いので、株式のリターンはプラスサムということになります。
株式でFXと同等になるのは「現物買い&空売り」の組み合わせ場合で、一般的な現物の株式取引を考えるとFXとは全く違う光景になります。


(8)スワップポイントがあれば低金利側の預金金利程度のプラスにはなるのでは?
1にも書いたように、この解釈は違っており、期待リターンは0になります。
外貨預金の期待リターンは円預金と同じ水準になります。
今の日本では日本円の低金利及び外国債券や外貨預金の手数料もあって、FXがほぼ債券代わりに使われている面もあります。そうすると、「外貨預金の期待リターンは円預金と同じ」 + 「FXは外貨預金/外国債券代わり」 = 「FXの期待リターンは円預金並み」という結論になりがちなのかもしれません。
しかし、スワップポイントは金利差となる外貨金利-日本円金利のFXではゼロサムになります。


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