分配金利回りの高さをセールスポイントにする投資信託のセールストークが良くあります。

しかし、誤解を恐れずに言えば分配金利回りが高い投資信託は良くないファンドであるケースが多い。あえて「分配金利回りが高い投資信託は悪いファンド」と言っておきたい。
中にはいいファンドもあるようですが、多くの個人投資家はそう思って敬遠した方が無難でしょう。

分配金利回りという不思議な数字はいくつか計算方法がありますが、基本的には「(前回や直近1年の)分配金の実績」÷「現時点や直近1年の平均)基準価額」で求めます。
つまり、分配金利回りが上がるのは、分子の数字が増えるか、分母の数字が減った時です。これは「分配金の実績が増える」、もしくは「基準価額」が下がった場合を意味します。

成績が好調だからこそ分配額が増えることが多く、分配金の額が多いから悪いとは断定できません。(ここでは分配金を出すことそのものが良くないという批判には目をつぶります)

問題は、基準価額の低下が分配金利回りを向上させることであり、分配金利回り向上はこのケースが多いことです。

毎月分配型投信の代表格はグローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)、通称グロソブです。このファンドを見てみます。
2006年頃は基準価額は8000円前後で毎月40円の分配金を出していました。年480円の分配金(40円×12ヶ月)を8000円の基準価額で割ると分配金利回りは6%です。
その後の金融危機でグロソブの成績は低迷します。今では基準価額が5300円前後で分配金は毎月35円です。年420円(35円×12ヶ月)を5300円の基準価額で割ると分配金利回りは7.9%です。
投資信託の運用成績が悪い方が基準価額が下がって分配金利回りが高くなっています。分配金が40円→35円と引き下げられたのにもかかわらずです。
何も事情を知らない普通の人は「利回りが高い」という言葉から運用成績が良いという印象があるかもしれませんが、上のグロソブの事例では反対の結果になります。2006年の好調時に分配利回りが低く、リーマンショック後の不調時は分配利回りが高くなります。

この傾向はグロソブに限りません。他の毎月分配型ファンドでも同じ傾向があります。リーマンショックと呼ばれた2008年からの厳しい相場環境では、投資信託の運用成績の悪化に伴って分配金利回りが高くなった投資信託が多数あります。

本来、分配金利回りだけで投資信託の運用巧拙を決められませんが、あえて分配金利回りの高さからパフォーマンスを推測すれば、世間一般のイメージとは逆の「分配金利回りが高いとパフォーマンスが悪い」と考えた方が実情に近い。

特に「分配金利回りランキング」のようなもので上位に来るファンドは注意です。基準価額の15%相当の分配金を出すようなファンドもありますが、明らかに期待されるリターン以上の分配金を出しています。
このようなファンドは無理をしているか、一時的に好調な成績分を吐き出しているかのどちらかです。投資信託の運用がずっと好調ということはありませんので、好調時に稼いだ資産を吐き出してしまっては不調時に資金が枯渇します。不調時に分配金を0にできればいいのですが、毎月(隔月)分配型として顧客にセールスしているとマーケティング上の理由からできません。現に基準価額が下がったから分配金を0にした多分配ファンドは聞きません。


「分配金利回りが高い≒パフォーマンスが低下している、だから反騰がある」とその投資対象のリターン・リバーサルに期待して投資するのはアリですが、分配金利回りが高い投資信託を良いファンドと考えるのは間違いです。


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