さて、先の2回のエントリーで税金や給付に関する制度に対して怒りをぶつけてきました。
 ・また子ども手当に所得制限とか言ってやがるのか・・・
 ・どこまで年収1000万超世帯を狙い撃ちするのか

今回は【扶養控除・配偶者控除の問題点】【ある水準で所得制限を設けてそこでいきなり線引きするやり方の問題点】について書きます。

(1)扶養控除・配偶者控除の問題点
所得税の考え方は「収入の多い人ほど税金の負担が増え、収入が少ない人ほど税金の負担が少ない」という税金の原理原則的な考え方です。同率でも収入が増えると絶対額が増えますが、所得が増えるに従って税率が上がることで、所得に応じた税額アップをより強固にしています。
この制度と扶養控除・配偶者控除は相性が悪すぎます。

扶養控除・配偶者控除は課税所得から一定額を控除するという制度です。そのために課税税率が高い高所得者ほど、実際に払う税金が多く控除されます。
最高税率40%の人の場合、親族を扶養に入れて38万の控除を受けると納める所得税は38万×40%=15万2千円減ります。一方、税率10%の人が頑張って親族を扶養しても38万×10%=3万8千円の税額免除に過ぎません。同じように親族を扶養しているのに所得が多い人ほど大きく税金負担が減るように、扶養控除・配偶者控除は強烈な逆累進性を持っています。

せっかく所得税が綺麗な累進性を持っているのに、ここに逆累進性の制度を入れ込むことで、せっかくの累進性が失われています。これは今検討されている所得制限が実現すれば、その領域での上位所得者層の有利はなくなりますが、それでも中位所得者と低位所得者の間での逆累進性は残ります。
まだ、課税所得の控除ではなく、納税する所得税そのものの定額控除の方がはるかにマシです。(定額控除額以下しか所得税を納めていない人にはメリットが小さくなるという考え方で給付付という制度もありでしょう)

(2)ある水準で所得制限を設けてそこでいきなり線引きするやり方の問題点
税金の原則は、(1)所得に応じた累進、(2)定率、(3)定額のどれかでしょう。
所得制限は所得が多い人が利益を受けるのはおかしいという考え方なので、累進性に近いものになります。しかし、ある水準を超えると突然「給付を受けられない、控除が無くなる」制度には大きな問題があります。

少し所得税に話を移します。(他の控除などを一切考えないと)所得税はきわめて美しい税率です。累進性なので収入が増えると税率は上っていきますが、1円でも多く稼いだ人は、稼ぎが1円でも少ない人より手取りが増える仕組みです。まさに累進性のお手本です。このような税金制度だと、少しでも多く稼げば手取りが増えるので労働のインセンティブになります。

しかし、今検討されている子ども手当の所得制限のような制度には問題があります。この制度だと所得制限の水準を越える直前までは手当を受け取れます。そして、1円でも越えた瞬間にいきなり手当が無くなります。このように、ある水準で断崖絶壁になる制度だと、多く稼いだ人の方が、稼ぎが少ない人より手取りが少なくなる逆転現象が発生してしまいます。
これでは正当な労働のインセンティブが得られません。また、この水準ギリギリで恩恵を受ける人と、恩恵を受けられない人の間での不公平感が広がります。
避けるべき制度です。


なお、過去には配偶者控除を正当化する理由があったのでしょう。
女性は結婚したら「仕事を辞めて」「家庭に入って」「子どもを生んで育てる」ことが良いとされました。男は「稼いで」「女性を養って」一人前という時代でした。
それが正しいとされる世界では、「結婚して」「妻は家に入って夫を支える」正しい行為をした人に報酬を与える一方で、「結婚しない」「女性なのに働いてしまう」という正しくないことをしている人には報酬は与えないことは、正当化できたのでしょう。(口に出してこんなことは言わないでしょうが、潜在的な認識ではそうだったと推測されます)
しかし、時代は変わってもいます。女性が家に入っていればいいという世界ではありません。女性の間でも働くか働かないかは人生の選択の問題になっています。一方にだけ控除を与える意味もないでしょう。


年齢に関係なく扶養控除も配偶者控除も廃止してしまえばいい。
今の税制では子ども以外の人の扶養控除も残されていますがおかしな話です。高所得者ほどメリットが大きい制度を温存するなど、それこそやりたい所得再分配に反する行為です。こういう制度から無くすことで簡単に所得の再分配が実現します。


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