最近はダイヤモンド社が強く推奨しているせいもあってかドラッカーが注目を集めています。

その中で、『もし高校野球の女子マネージャが・・・』という本が売れていますが、どうしてもこの本に賛同できません・・・

高校野球の女子マネージャ+ドラッカーということでスポーツ関係+マネジメントの話になるわけです。
ドラッカーを高校野球という日本人の多くが身近に感じられるものに落とし込み、女子マネージャという言葉と表紙の絵を使うことで売ろうとしたのでしょう。



しかし、このスポーツが問題。
私がどうしても賛同できない気持ちになったのは『もし高校野球の女子マネージャが・・・』著者である岩崎夏海氏のブログの『上村愛子はなぜ勝てなかったのか?』というエントリーです。
ここで岩崎氏は、将棋の大山康晴十五世名人とボクシングの輪島功一氏を勝者の事例を挙げて、バンクーバーオリンピックで上村愛子がメダルを取れなかったという理由を書いているのだがこれが酷い。

●将棋の大山康晴十五世名人の例
将棋の大山康晴十五世名人は、対局者同士が一緒の席で食事をする機会で大きなステーキを食べた。
⇒これで対局者は気圧されて将棋で実力を発揮できず、敗退を余儀なくされてしまう
●ボクシングの輪島功一氏の例
対戦相手を油断させるために、試合前の記者会見でマスクをして咳き込んで風邪で体調不良をということをアピールして相手を油断させようとした。
⇒相手はそんな下手な芝居には引っかからなかったが、その勝利への執念に「こいつには敵わない」という恐れを抱かされた。

大山名人や輪島氏はこれをやったから勝てて、上村選手にはこれが無かったから勝てなかったんだそうです。


アホですか?


まず、直接相手と対戦するボクシングや将棋と個別に滑るモーグルをそのまま比較できません。対戦型なら相手の全力を封じ込めて勝つことができます。
将棋であれば意表をつく手で空中戦に持ち込むことなどで相手の実力を出させないという方法もあります。
ボクシングなら相手の苦手なインファイトに持ち込むことで勝つこともできます。
モーグルでもモトクロスのように複数人が滑る競技であれば、いいラインをブロックすることで相手の実力を封じることもできます。
しかし、個人が順番に走って競争する競技ではそれは無理。


ましてや、ハッタリだけで勝てるほど将棋やスポーツの世界は甘くありません。

大山康晴十五世名人をバカにしているのだろうか?彼がハッタリや気迫で勝ってきただといういうのは間違い。実力があってこそハッタリが活きるし、ハッタリが利かなくても実力でねじ伏せられる。
棋士つながりで話をすると、羽生善治氏が現役最強棋士の呼び声が高いが、彼があまりに平凡そうな手を打つと相手の手が止まるという。これは「羽生ほどの実力者がそんな凡手を打つわけがない。これには何か裏がある。」と対戦相手が羽生の実力を認めているが故に相手が動揺するわけでです。
C級程度の棋士が同じ凡手をはなってもただの凡手とされるだけでタイトルホルダーや挑戦者になるような棋士にはハッタリにならない。


では、上村選手が岩崎夏海氏の言うようなハッタリをやったらどうだったのか?
前のシーズンでは絶好調だったが、オリンピックシーズンになって上村選手は調子が上がらなかった。「上村を恐れる必要無し」という空気の中でできるハッタリなど無い。
実力を隠していると思わせたければ、それだけのパフォーマンスを見せなければいけないが、モーグルの世界で大食いをやっても意味は無い。記者会見の小細工も無意味。

上村選手の上位に来た選手たちは、そのシーズンに限れば上村選手よりはるかに格上だった。その中で迎えたオリンピックで負けたのだから、基本的にはその時点での調子を含めた実力の差がそのまま出ただけというのが普通の解釈でしょう。




万が一にも、上村選手は(実力の問題ではなく)ハッタリが無かったからメダルに届かなかったという岩崎氏の主張が真とすると、メダルを取った3人はハッタリをやったから勝ったということになる。彼女らはどういうハッタリをやったというのか?



スポーツに対してこういう解釈の人にスポーツ+マネジメントの話をされても、心の狭い私は「何だかなー」という気持ちになるわけです。


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