先のエントリーで『不透明な時代を見抜く「統計思考力」 』の中で著者の神永氏が、金融の世界で無条件に正規分布と仮定してリスクを計量することは危険と主張していることを紹介しました。
それに簡単に触れてみます。

次のグラフは『不透明な〜』の167ページにS&P500のリターンの棒グラフです。これを見てください。(まずは曲線は無視してください)
sp500_histogram.JPG















棒グラフは何となく釣鐘上に分布しているようにも見えます。それではこの棒グラフの分布は正規分布としてよいでしょうか?


実際は曲線が正規分布であり、S&P500の棒グラフは正規分布ではないとのことです。このような棒グラフの分布はベキ分布とのことです。


そして、神永氏はベキ文応の代表としてコーシー分布を紹介しています。コーシー分布は以下のようなグラフになります。(黄緑色が標準コーシー分布)
コーシー分布


このコーシー分布のグラフとを見ると「何が正規分布と違うんだい?」と思うかもしれません。しかし、大きな違いとして、

この分布には・・・平均も分散も存在しないのです。


恥ずかしながら私も知りませんでした。
コーシー分布のようなベキ分布は、グラフ上の見かけは一見正規分布に似ていても、最頻値や中央値があっても平均も分散も無いのです。正規分布とベキ分布にはこれだけ違いがあると「ちょっと裾野が広いだけジャン」では済まされません。
「一見似ている」なんて理由で無理に正規分布にして平均や分散を使うのは、強引といわれても仕方ありません。

『不透明な〜』の中でも有名なLTCMの失敗例が挙げられていますが、彼らがバカだったというのではなく、正規分布というモデルを使用したことが誤りだったと言っています。

正規分布に従うものでは、試行回数を増やせば増やすほど特定の値(期待値)に収束するが、ベキ分布の場合は試行回数を増やしても収束しない。
そうすると、正規分布ではなくベキ分布に従う(らしい)投資パフォーマンスの世界では、期待値と分散を駆使してリスクを求めること自体に無理があるのではないか?と考えさせられてしまいます。
株式パフォーマンスのモデルで平均や分散が無いモデルが正しいのかは分かりませんが、少なくともそれが存在することを前提としているのはおかしそうです。



『不透明な時代を見抜く「統計思考力」 』 の評価を星5つとさせていただいたのは、この示唆があったからです。これはいい勉強になりました。



長期分散投資派の立場としては、リターンとリスク計量の不確実性を見事に突きつけられた格好になるんですが・・・この手の自己批判の意見は大好きです。


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